「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
「だめか」 管理サーバへアクセスできるだけの権限付与がない。 仮想モニタを多段式・複数パネルで浮かび上がらせる。広域サイトで情報収集だ。表に裏に闇に赤。こんなことなら暇つぶしにでもサーバ関連のページをROMっておけばよかった。後悔先に立たず、情報収集のサボリは己に返る。 ピコン、と3秒でダイアログが表示。Enter。 ――なるほど。 昨夜21:00にアップデートされた公式パッチが出ている。カーネルバージョンは3.14.19。 詳細内容はリモート接続のセキュリティホール。”外部よりの悪質な侵入者によりパソコンが操作される危険があります”。 致命的な不具合。 裏サイトで情報収集。10万桁のポートに穴? 馬鹿か? なぜ今更こんなセキュリティホールが発見される? ああ、なるほど。パッチのデグレードか。お間抜けだな。 さて、サプライズのセキュリティ担当者は優秀なのかどうか。 ――ビンゴ。 リモート接続によるハッキングに成功。李のアカウントで潜入。P棟に指示された搬出口リフトの強制停止命令を排除。すべてが電子化された現代、セキュリティの突破は即クラッカーの餌食に決まっている。 丸一日パッチの適用を遅らせた被害はこの始末だ。セキュリティ担当者――たしか、S1課の大岸さんだったか――は明日大目玉だろう。ご愁傷様。 ――いや。 画面に表示されたのは『Atention!!』の文字。 「――侵入者防止に仕掛けられた番兵に捕まった。解除は出来たが、進入はばれたか」 やるな大岸さん。 フリーズした携帯用汎用機の仮想システムを強制シャットダウン。さすが一流企業、前みたいに楽には行かない。教訓化されるのが早いのもこの業界の特色だ。 3分30秒。 これまでにかかった時間だ。 「案外、かかっちまちったな」 「どうしますの! まだ開きませんの!?」 横で少女が慌てている。誰だっけ? うーん。と。 集中するとそれまでの記憶がぼやけてしまう。なんだっけ? 俺、何してた? 「あ、そうか」 レバーを握る。 今回は思い出すのが早かった。 「開いたぜ。今からお日様の場所へでる」 といっても、今は夜だが。拝めるのはお月様だろう。 |