「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
ぽちぽち。 「おっかしいな」 「どうしましたの?」 「開かねえでやんの」 「何でですの」 「たぶん、自社製品を持ち逃げされる最後の関所なんだろーさ」 うーん、と唸るのをみて、心配そうに少女が尋ねる。 「どうにかなりませんの? 捕まったらゴーモンを受けてラチカンキンされて死ぬまでムショウロウドウの憂き目ですの!」 「お嬢ちゃん、難しい言葉知ってるねー」 「からかわないでくださいですの!」 「まぁそう慌てなさんな」 ふざけた目つきに真剣さが加わり、浮かべていた笑みが深くなる。 「こういうときこそ燃えなきゃダメだろ」 nanoテクニカ社製の携帯用汎用機を起動させる。つなげたままの無線型パケットジャックから”アガメムノン”の工作食指の神経に侵入し、貨物リフトの電子回路へ、別経路よりサプライズの管理サーバに同時にアクセス。 『アカウントとパスワードを要求します』 『FAULT』 3回目でアクセス権 別ルートで同じようにアクセス。 『アカウントとパスワードを要求します』 『FAULT』 ――Xunillか。堅いな。 ハッキングツールを広域ネットよりダウンロード。自分用の隠しサーバよりあらかじめ組み込んでいたXunill用ツールである。むかし、これで企業一つ潰して以来、メンテナンスをサボっていたが、一応試すか。 登録しておいた公式開示セキュリティホールから即時判別可能なもののみピックアップし、ブロードキャスト・アタック。 検索結果は軒並みNG。すべての穴は塞がれていた。 ――情報が古い。当然っちゃ当然だ。 少し考え、アクセスアカウントを絞りこむ。本部の認識しないAnonymousアカウントでの複数アクセスはハッカー出現を知らせるわかりやすいコードサインだ。管理者によっては検知ツールを恒常起動させ、不審アカウント出現とともに管理者アドレスへ通知する一連のプロセスを自力で組み込むプロセキュアもいるが、そういった管理プロはメーカーで働く人間には少ない。仕事ではなく、趣味の領域だからだ。 『syunree』 自分の知る最も高ランクの李顧問のアカウント。 パスワードも知っている。 内部要員のアカウント管理など雑なものだ。 『FAULT』 |