「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 襲い掛かってきた少女を悪戦苦闘の末、コクピットルームの隅に押しやる。
 まだあきらめ切れていない様子で、顔を真っ赤にして隙をうかがっている。
「あっぶねー。なんつー凶暴な嬢ちゃんだ」
「ふーッ」
「仮にも”ブレインマイスター”のご息女だろ? ちっとはしつけを習わなかったのかね?」
 その一言に少女はあからさまな動揺を見せ、仮面の奥から驚愕の目線を向ける。
「なっ、何で知っていますの!?」
「たっはっは! 俺に知らねえことはねえよ!」
「もしかして貴方――わたくしのファン? ストーカーかしら!!」
「ちがうけどナー」
 貨物出荷用の搬出口を目指す。
 数十M先の目的地には、大勢の警官隊が銃を構えてこちらを狙っていた。
「撃て!」
 叫び声とともに、一斉に並んだ3.8mmの銃口から火が噴く。普段犯罪者相手に撃ちなれない彼らも、Dzoidという規格外の犯罪道具に対しては規則のたがが外れるらしい。
 チュイン! チュイン! と、小粒の弾丸が鋼鉄の鎧にぶつかり、跳弾の雨が飛び交う。
「ま、待て! 中止だ中止!! うわっ」
 何人かが予想外に跳ね返ってきた自らの銃弾の犠牲になる。
「すげーな、鉄の城だぜ。この機体」
「クロガネノシロ?」
「昔のアニメだよ。要は硬いってコトだ。防御力は桁違いだな。素材は有機メタルか――それだけじゃない。コーティングに秘密があるのかもしれない。こいつは持ち帰って研究する価値がある」
 目を輝かせる彼に、少女は無邪気に尋ねた。
「貴方、オタクですの?」
「オタク? お宅ね、ってか。あまりいい言葉じゃないが、そうだな、そういう部類だろう。趣味って奴を突き詰めりゃ、世間からはオタクかマニアだ。ドクトルやスペシャリストなんてのも、オタクと五十歩百歩で変わりない。ま、切り分けは社会に役に立つかどうかだな」
「オタクは変態なのですわ」
「たっはっは。嬢ちゃんがいったいどんな情操教育を受けてきたんだい?」
「お父様が言ってましたわ」
「親の教育、君の年ならむべなるかな」
 搬出口である貨物用リフトにまでたどり着くと、差し出した手の指からさらに細い触手――多間接で構成されたミクロ作業用の工作食指――を器用に操作し、人間サイズのボタンを押す。
「……あれ?」
 ぽち。

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