「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

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「ドク! 穂ノ原! 連絡もナシになんで上から降って来るんだ!」
 聞きたいことが二ついっぺんに口からついて出た。
 彼はいささか混乱していた。
「な、ナム……」
 目を回したドクがのろのろと這って出てくる。
「や、やられた…」
「やられた!? 誰にだ?」
 彼の部下に。
「くそっ、潜入捜査がばれたのか!?」
 事実を知る二人はいまだ目を回して気絶している。
「貴様の仕業か!?」
 視線を向けた先で、走りだした背中があった。
「――動くな!」
 丸腰の背中に向け、M500Hの照準をロックオンする。
 鈴木はポケットに手を突っ込み、振り返りざまにステップして放り投げたスローイン
 小型のカプセル。
 ナムの頭に最悪の事態がよぎる。
 照準をずらし、カプセルにロックオン。
 弾を発射する前に、カプセルから勢いよく白煙が噴出した。
――爆薬ではなかった。
 わずかに安堵する。携帯型プラスチック手榴弾も、近頃は手ごろな値段で闇オークションで手に入る。海の底で爆発物など使われたら、流れ込む海水に巻き込まれて残らず全員海の藻屑だ。
 口を塞ぐ。
 何にしろ、物質である煙が外部から入ってくる人間の器官は限られている。鼻と口と目。目を塞ぐことは出来なかった。去っていく姿が捉えられなくなる。
 効果はすぐに知れた。
「ゴホッ! ゲホゲホ!!」
 煙に巻かれた警官たちが次々に口と鼻を押さえて苦しそうにあえぎだす。
 ナムの視界も強制的な涙腺干渉により、涙があふれてきた。
「――ごほっ!」
 催涙弾だ。
 ゆがむ視界で、男が笑って去っていく。
――野郎!
 瞬く間に白い煙で包まれていくフロアを、涙目になりながら目的のものを探し出す。
 横の柱に備え付けてある非常ボタンを見つけ、渾身の力で一撃を叩き付ける。
 ジリリリリリリリ!
 耳障りな音が鳴り響き、スプリンクラーが盛大に水をまき散らし、空調が有害物質を吸い込み始める。大量の水分により煙はかき消え、男の姿が見えてくる。

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