「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

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 休憩室に出ると、所員全員が大慌てだった。
 上司が銃を手に出てきたのを見ると、ぎょっとした部下の藤谷美紀君が声を掛けてくる。
「何事ですか!?」
「不審者を発見した。今俺より前に出てきたやつがいただろう、そいつはどこに行った?」
「そんなの知りません! それより大変なんです! 外に――」
 けたたましく鳴るサイレンの音。
『警告! 警告! 敷地内に所属不明の暴走Dzoidが出現! 緊急事態発令! 所員は速やかに非難してください!!』
 ずしん! ずしん! と建物が揺れる。頑丈そうではあるが、これだけの地震(?)が続くと願望だけの耐震構造にすがりつくのは無理かもしれない。
 D4課の所員に混じり、ナムの部下たちが逃げようとエレベータに殺到する。
 その首根っこを掴むナム。
「お前ら仕事放り出してどこへ行く!」
「すいません! まだ死にたくないんです!」
「故郷に4歳の妹が…」
「おなかの調子が」
「労災手当てがあるだろう!!」
「「金より命のほうが大事です!!」」
 揃って口に出す。
「少しは格好つける大人になれ」
 藤谷を呼びつけると、こいつらの性根を叩きなおしておいてくれと頼む。藤谷女史は若いながらも有能な主任チーフである。
「今はそんなコトしている場合じゃないですよ!」
 問答無用に3人を押し付ける。
 警官隊はさすがにこういう緊急事態に慣れているのか、パニックに陥らないよう適確に所員を誘導してエレベータの前に整列させる。非常階段のほうにも所員たちが列を成していて、地下30階から地上を目指す強行軍に取り組もうとしている。
「何をうろたえている! 逃げ出せば相手の思うつぼだぞ!」
 李顧問が顔を真っ赤にして、D4課の部下たちを叱咤する。
「われわれは何のためにここまで”アガメムノン”を立ち上げたのだ! 我々の成果が実を結ぶ、このときに横から泥棒に掻っ攫われてたまるものか!」
 一人でモニタに向かい、”アガメムノン”の調整に入る。
 その様子は鬼気迫るものがあり、研究者としての執念を思わせた。
 何人かの研究人が、互いに目をかわし、うなずくと列を離れて李の作業を手伝い始めた。
 彼らを見た何人かがまた視線を交わし、自分の作業場所へと戻っていく。
 いくつか同じ事が繰り返された。

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