「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
/ 14 / 休憩室に出ると、所員全員が大慌てだった。 上司が銃を手に出てきたのを見ると、ぎょっとした部下の藤谷美紀君が声を掛けてくる。 「何事ですか!?」 「不審者を発見した。今俺より前に出てきたやつがいただろう、そいつはどこに行った?」 「そんなの知りません! それより大変なんです! 外に――」 けたたましく鳴るサイレンの音。 『警告! 警告! 敷地内に所属不明の暴走Dzoidが出現! 緊急事態発令! 所員は速やかに非難してください!!』 ずしん! ずしん! と建物が揺れる。頑丈そうではあるが、これだけの地震(?)が続くと願望だけの耐震構造にすがりつくのは無理かもしれない。 D4課の所員に混じり、ナムの部下たちが逃げようとエレベータに殺到する。 その首根っこを掴むナム。 「お前ら仕事放り出してどこへ行く!」 「すいません! まだ死にたくないんです!」 「故郷に4歳の妹が…」 「おなかの調子が」 「労災手当てがあるだろう!!」 「「金より命のほうが大事です!!」」 揃って口に出す。 「少しは格好つける大人になれ」 藤谷を呼びつけると、こいつらの性根を叩きなおしておいてくれと頼む。藤谷女史は若いながらも有能な 「今はそんなコトしている場合じゃないですよ!」 問答無用に3人を押し付ける。 警官隊はさすがにこういう緊急事態に慣れているのか、パニックに陥らないよう適確に所員を誘導してエレベータの前に整列させる。非常階段のほうにも所員たちが列を成していて、地下30階から地上を目指す強行軍に取り組もうとしている。 「何をうろたえている! 逃げ出せば相手の思うつぼだぞ!」 李顧問が顔を真っ赤にして、D4課の部下たちを叱咤する。 「われわれは何のためにここまで”アガメムノン”を立ち上げたのだ! 我々の成果が実を結ぶ、このときに横から泥棒に掻っ攫われてたまるものか!」 一人でモニタに向かい、”アガメムノン”の調整に入る。 その様子は鬼気迫るものがあり、研究者としての執念を思わせた。 何人かの研究人が、互いに目をかわし、うなずくと列を離れて李の作業を手伝い始めた。 彼らを見た何人かがまた視線を交わし、自分の作業場所へと戻っていく。 いくつか同じ事が繰り返された。 |