「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

『ナイト』の直噴インジェクタから多量の水素燃料がエンジンに噴き込まれ、爆発的に火力を引き上げる。瞬間的に跳ね上がった馬力が『タンク』の腕を掴み、数Mを押し戻した。
「穂ノ原! 何をやっとる! 吾輩が負けているじゃないか!」
『うおおおおお!!』
 組み合っていた腕をもぎ取ると、がしっと体を掴んでぐんと上に高く持ち上げた。
「ぬぉ!? ヤバイ! 死の予感がする!!」
『タンク』にしがみついたドクが青い顔で防御殻の中にいる穂ノ原に向けて、必死に合図を送る。
 がんがんがん!!
「開けろ! 中に入れるのだ!!」
『いいですよー』
 ドームのような防御殻が開き、『タンク』の頭頂部へ転がり込む。
 防御殻が閉まる。
『はぁ!!』
 空を飛ぶ『タンク』。
 駐車場の路面にぶつかると、ガリガリとアスファルトを削りながら路上をすべる。
『タンク』は、一度横倒しになると立ち上がれない。亀のような機体である。
 一発逆転の大ピンチ。
『ナイト』が通常よりはるかに殺気だって近づいてくる。部下の怒りがその背後にひしひしと感じられた。
 まずい。
「穂ノ原、そのボタンを押せ!」
 スッ転んだ体勢で身動きできない自分に代わり、新米社員に命令する。
「これですか?」
「そうだ! そのボタンだ!」
 穂ノ原は命令どおり赤いボタンを押した。
 数秒後。
 ちゅどーん!!!
 派手に『タンク』は自爆した。

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