「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 ぼふっ、とぶつかった装甲へ衝撃と同時に白い粘液が絡みつく。
 中身は強力なのり・・――犯罪者捕獲用のとりもちをラップしたトラップミサイルである。ねばねばした弾力は敵の動きを封じ、横暴な犯罪者をたこ殴りにできる絶好の機会を与える。
 とりもちはモニタの壊れた機体にもぶつかり、二体のDzoidが完全に無力化する。残りは適当に地面にぶつかり、逃げ惑う警官の足をしっかり捉えて哀れな悲鳴が上がる。
「はっはっはっはぁ!! みたか!!」
 悪役が笑う。
 パーライト速射砲――特殊な製法によって金属粒子を圧縮して弾丸に閉じ込め、あたれば散弾のように相手をズタズタにする――の弾頭が身動き取れない『ナイト』を襲う。
 無事だった一体がシールドを展開し、仲間を守るように立ちふさがった。
 速射砲は連続的に弾を発射し、強化セラミックの装甲を散弾の雨で刻々と削っていく。
「降参するのだ! 正義の味方よ!!」
 悪役がはまっているドクが指をさしながら告げた。
「吾輩はもともとこっち派なのだ!」
『セイレンさん! いい加減にしてください! 遊びでやっているんじゃないですよ!』
「ふっ、遊びではない。趣味だ!」
『どっちも同じでしょうが!!』
「違う! 趣味は高尚なのだ!! 100年も生きてないのに生意気言うな!』
 肩の上で怒るマッドサイエンティストは、自機のパイロットに向けて叫んだ。
「穂ノ原! 雑魚はもう良い! 狙うはナムの首だ! 我らを敵地へ赴かせた現場責任者に武力抗議を行うのだ!!」
『了解しました!!』
 速射砲の狙撃が収まる。
『ナイト』を操縦していた藤堂昭久(平社員)がようやく収まった銃撃にほっとする。
「突撃だ穂ノ原!」
 その言葉を聴き、自分の甘さに細い息を吐く。
 6本の腕が生えた『タンク』が馬力を発揮してシールドに向かって猛烈に突っ込んでくる。
 強化セラミック装甲はパンチ一発で最後の役目を果たし、粉々になって砕け散った。
 藤堂君は踏ん張った。
 1:3という多勢に無勢の腕の数で、『タンク』の突進を塞ぐ。
『はれ? 動かないですよ!』
「やるな雑魚!」
『雑魚じゃありません!! 上司の不始末は部下がつけます!』
「よい根性だ! 出会う形が違っていたなら、友となれたかもしれない…」
 二体のDzoidのせめぎあいのさなか、肩口で余裕を見せて遠い目をするドク。
『職場同じじゃないですか!』
「ふっ、まったく誰のことかとんとさっぱり意味不明だ」
 首を振るドク。
 温厚な部下がキレた。
『うおおおおお!!』

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