「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 ニヤニヤ笑う。
「君は鈴木君だよね」
「見ればわかるでしょう?」
「近頃の3D技術はすごいそうだ。同僚が言っていたよ。まるで人間を別人のように見せるってな」
「へー。どうなんすかね」
「貴様を逮捕する」
「そりゃ困る」
 鈴木がそういうと、どしん、という大きな揺れがD4課開発室を襲った。
 サイレンが鳴り始めた。緊急事態の通報だ。
 ナムはそれでも鈴木から目を離さない。
「お前は怪盗ピンクじゃないな」
「まーね」
「ようやく正直に話してくれる気になったか」
「冗談」
 軽口を言った瞬間に肩を掴む。
「おっと動くなよ。銃口が頭を狙っている」
 S&W M500Hの銃口を脳天に当てる。この銃はダブルアクションだ。引き金を引けば撃鉄があがり、雷管を叩いて鉛弾が飛び出す。その間コンマ数ミリ。
「参ったな。あんた、思ったより頭がいい」
「減らず口もいい加減しろ。怪盗ピンクに依頼をしたのもお前か」
「黙秘権」
「ふざけるなよ」
 大きな揺れが休憩室を揺さぶった。
 体のバランスを崩し、銃口がそれた瞬間、鈴木が電光石火の速さで戸口に向かって猛ダッシュした。
 この揺れでも目的の場所へと走ることのできる技術。素人じゃない。
 ナムは引き金を引いた。
 ズドン、という音がしたその瞬間、自販機に大きな穴が開く。
「ヒュゥ! いいもの持ってる」
 そういうと、手の持っていた何かをナムに向かって投げた。
 とっさに狙いをつけて撃つ。
 紙コップの中身が派手にぶちまけられて、琥珀色の液体が上から降ってきた。
「おあつ!! あっちぃ!!」
「あんたのおごりだ。ごちそうさん」
 笑い声をあげ、外へと出て行く鈴木。
「くそっ」
 ナムは熱いのを我慢して、その後を追った。

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