「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
/ 12 / 需要がある限り供給は生み出され、生産はとどまることなく続いていく。市場原理が支配する資本主義の構造は、わかりやすいほど自己利益優先だ。 目の前にそびえ立つ悪魔のような形相のDzoidを見ながら、ナムは考えていた。 腕時計を見る。 午前0:00へと針が近づいてきている。特7課から呼びだした部下は総勢十名。地上と地下に半分ずつ。緊張した面持ちで、時刻間近の怪盗を待ち構えている。 ”権介”の呼びだした部下は揃いも揃ってブルーの服装が似合うお巡りさんだった。他の刑事も何人か混じっているようで、腕に巻いた時計の一機能として用意された無線通信で連絡を取り合っている。 ナムの時計にそんな余計な機能は存在せず、純粋に時刻だけを知る時計だった。ブランドものだが、偽物だか本物だか知れない。アナクロリズムが趣味の彼は、武器にしろ、行動にしろ、今の現代は便利が過ぎてどうにも気にくわない。主義主張が一貫していると言われれば聞こえがいいが、部下たちからは携帯電話くらい持てと散々言われている。 その代わりに、ドクを連れ歩いているからいいじゃないか、とナムは毎度反論する。彼は最新設備の塊のような人間で、新しい製品がでたことを知っては株で儲けた金を残らず注ぎ込んで散財している。 実は借金がかなりかさんでいるらしい。今度飯でも奢ってやるか、と思う。 近くに通りかかった部下に声を掛けて呼び止める。 「ドクから連絡はあったか?」 「いいえ」という返事。 何をしているんだ、とナムは思った。もうすぐ予定時刻だぞ。 しくじったとは考えなかった。ドクは、子供のような外見だが、ともに修羅場をくぐってきた最高の もしかしたらそれが間違いだったのかも知れない。 そわそわと落ち着かなくなる。本当にそうだったらどうしよう。 D4課の所員は全員真面目にテキパキと自分たちの仕事に取り組んでいた。現場責任者である李顧問もそうだ。静かな声で的確な指示を与え、開発のみに注力する。出来る上司という奴だろうな、とナムは思った。頼りになる上司を持つと、部下は実力以上の実力を発揮する。彼自身の経験則だ。 そのとき、チン、と音がしてエレベータが降りてきた。 全員が緊張した面持ちでエレベータに目を向ける。気の早い何人かが、室内用に出力を絞ったGW社製01L レーザーガンを向けた。 「あー、もうたりーなー」 降りてきた人物は、自分が注目の的なのに気づくとぎょっとして固まった。 「うおっ!? 何なんスか!」 反射的に手を挙げる。 鈴木だった。 「こんな時間に何のようだ」 |