「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 ”黒い白鳥”はどこにでもいる――ある実証主義者の皮肉である。
「――例えば、ですが」
 ナムは反論を唱えてみることにする。
「人が機械を使うのではなく、機械に人を使われる、なんてことは、ありえますか?」
「うむ。君は生徒に向いているな」
 と、李顧問は破顔した。
「そういった常識へ反論できる人間は、いずれ大きな発見を生む可能性が高い」
「……私はしがないサラリーマンですよ」
「機械が人を使う、か。人間の脳細胞は電気的なシナプスの受け取りで構成されている。例えば、”アガメムノン”が乗車する人間を自らに必要なコアとだけ考え、その命令の一切を拒否したとしよう。その場合、”アガメムノン”がコアに求めるのは自らを動かすための心臓という役目だけだ。生きていればいい。情報を発信する中継機能としてさえ役目を果たせば、植物状態でも構わん」
「それは、危険ではないですか?」
 ナムの言葉に、李顧問は首を振った。
「だが、そんなことは実現できん」
「なぜです? 今おっしゃったことは、技術者としての貴方の見解では?」
「うむ。やはり君は惜しい人材だ。私の出た大学へ入ってみる気はないか?」
「結構。それより答えを」
「よかろう」
 李は良い生徒を前にした教授のように答えた。
「機械は物を考えない。それだけだ」

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