「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

「袋だたきになればいいだろう!」
「ひでぇ!」
 鈴木は肩を落とすと、ナムに「元気でな」とこの世の終わりのような顔をしてエレベーターに乗って上がっていった。
 開発部ってのは、そうとうにひどいところらしい。
 ほんのちょびっとだけ同情する。
「サプライズってのは、ユニークな人間が多いな」
 ”権介”の皮肉にナムは返す言葉もない。
「李顧問。あとの警備は彼らに任せて、私は引き上げます。何かしら問題が起きましたら、直通回線でお呼び出しください。すぐに駆けつけます」
「ああ、わかった」
 すでに別の人間と作業内容について話しあっていた李が見向きもせずに返事を返す。
 その態度を怒る風でもなく、ごく当たり前のように捉えて如月は出口へ向かった。
「では、頼んだぞ」
 すれ違いざま、ナムと権之進に声を掛ける。
「警備の手順ってのは、こっち側で整えりゃはいいんだな?」
 権之進の言葉に、「そうだ」と答えて足取りを止めずエレベータに乗り込む。
「ただし、作業の邪魔だけはするな。作業の遅れは10%の損益を確実にする」
 プレッシャーだけを残し、エレベータの扉が閉まる。
 忙しそうに働く開発課の人間に混じり、ぽつねんと取り残されるナムと権之進。
「俺は一課に連絡して救援を頼む。ネズミ一匹入らんように防衛戦を張ってな」
「どこに張るってんだ? ここは海底だぜ?」
「入ってくる出口は一つしかないだろう」
 といって、権之進は如月が出て行ったエレベータをみる。
「あれだけ見張るのに人がいるのか?」
「あそこへ至る道すべてに人員を配置する。乗り込む前に怪盗など捕まえてくれるわ」
 不敵に笑う刑事。
「そういや、怪盗ピンクって、どんな奴か知ってるか?」
「いや、知らん」
「ちょっとそこの端末借りて見てみろ。顔くらい知っていた方がいいだろ」
 そういって、ナムは空いている端末を借りてネットに接続する。
 メモ帳に書いていたアドレスを一文字一句間違えないよう打ち込み、ENTER。
 嬌声が響く。
 課内の全員が驚いた様子でナムたちを見た。
「……こ、これが、怪盗ピンク……」
 ”権介”が生唾を呑み込む音がする。画面に表示されているのは、絶妙な3サイズにぴっちりとした全身タイツを着こなした等身大の美女の姿だ。
「ああ」
 と返事したナムは、自分が権之進以外のたくさんの人間に囲まれていることを知って目を丸くする。
 みな鼻息が荒い。

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