「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

「進捗具合は如何ですか?」と如月。
「80%といったところか。どうにも”FAIRY”と”ACTi”システムとの連携がとれず難儀している」
「シミュレーションの段階では照合率98.2%と報告を受けておりますが」
「机上と実物では違う。……と言いたいところだが、これはソフトの問題だな。転送パケットのデータが仕様と異なる。結合テストの段階でこんなものが見つかるとは、部下に恵まれていないらしいな。如月君」
「申し訳ございません」
 如月が低頭する。
――”FAIRY”を開発したのは如月部長の管轄部門か。
 どうりで。とナムは思った。
 如月管轄のソフトウェア開発部門であればCL課――CenturyLostSoftwareだろう。あそこは元は一つの会社だったが、一時期の不況で経営難に陥ったところをサプライズに拾われ、正社員がそのまま継続雇用という形になった部門だ。特7課と同じく勤務形態がヘビーな部門で、今年は5名ほど新人が採用となり、恒例の五月病が流行っている。
 如月の部門の中でも、とくに売り上げに貢献している部署だ。
 OSなどという複雑怪奇なソフトウェアを丸投げされてもやり遂げる玄人集団が、そんな初歩的なミスなど冒すだろうか?
「CL課の人間は呼ばれましたので?」
「ああ。今解析して貰っている」
「おっかしいなー」
 誰かが大きな声で叫んでいる。
「もう一度やってみてくれよ。絶対おかしいって」
「何度やっても同じだ! いい加減ミスを認めろ!」
「いやいや、こっちだって徹夜明けで呼ばれてんだ。勘弁してよ」
 並んだモニタの前で押し問答をしているD4課の研究員と私服の男。男の胸に、プラカードがぶら下がっているところを見ると、どうやらサプライズ社員のようだ。
 如月が無言でそちらへ歩いていく。
「鈴木君。君が呼ばれたのか」
「あっ、これは部長。チーッス」
 軽い調子で返事をする男。ピアスにだぼだぼのTシャツ、ジーンズを引きずってい歩いている風体は、ひどくだらしない印象を与える。
「関口主任はどうした。彼が他部門とのやりとりに出てくるはずだろう」
「それが突然お腹を壊して早退しちまったんスよ。代わりに俺が」
 にやにやと楽しそうに笑みを浮かべている。
 ナムと目があうと「ハロー」と言った。
「ここは他部門だ。行動は慎みたまえ」
「何言ってるんスか。人類皆兄弟、地平線は繋がってるんスよ」
「海底に地平線はない」
「うまいなー部長。こりゃ一本とられた」

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