「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

「これが、”アガメムノン”ですか」
 呆気にとられて、ナムは上司に尋ねた。
「そうだ」
 同じように如月も見上げて頷く。
「総量15トン。全長9.8M。世界最大の軍事重視のDzoidといっても過言ではないだろう。これはあくまでオリジナルとして公開されるモデレーション機だ。実物のカラーリングと付加武装は購入者の希望要望によって付加される」
「武器、どんなのがあるんだ?」
 権之進が尋ねると、如月は眼鏡を押し上げてレンズの奥に目を隠す。
「それは、軍事機密だ」
「軍事機密ときたか」
 権之進は眉を曲げて皮肉った。
「米国とまだ調整中の段階でもある」
「売り先は世界最大の軍事大国か。これならずいぶん気前よく払ってもらえそうだぜ」
「それなら良いがな」
 如月の呟いた言葉に、ナムは不思議そうな顔をする。
「君たちはこれを守るのだ。正当な軍に渡れば鬼に金棒の武器になろうが、テロリストにでも渡れば破壊的な非人道的兵器となる。この任務がどれほど重要か、分かってくれたかね」
 その言葉には、ナムも権之進も頷くしかなかった。
「如月君」
 如月は声を掛けられた方を向いた。
 老練な顔つきの研究員とおぼしき人物が、諸手を挙げて出迎える。
「これは顧問」
 如月はきっちりと直角に腰を九〇度に折り曲げた。
「こちらにおいででしたか」
「ああ、そちらの二人が”アガメムノン”を護るサムライかね?」
 顧問、と言うからには、かなりの実力者なのだろう。
 ナムは頭を下げた。
 如月が二人を紹介する。
「向かって右が私の部下である特7課課長の六道南無、左が警視庁より本件のために出張してこられた警視庁捜査一課の乙女塚刑事です」
 二人とも挨拶する。
「よく来てくれた。歓迎する」
 しわの刻まれた顔が歪むと、見かけより人なつっこい笑みが浮かぶ。
「私はここD4課で”アガメムノン”の開発指揮を執っている李瞬リ・シュンと申します。本日の警備、宜しくお願いします」
「いえ、こちらこそ」
 あまりに腰の低い相手にナムは少し鼻白んだ。
 部長が頭を下げるほどの人物だ。自分なんかが気楽に声を掛けることのできる立場ではない。

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