「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

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 サプライズの開発室はそのほとんどが地下にある。
 張り巡らされたネットワークケーブルが地下100メートル深くにまでデジタル信号を運び、空と地上からの侵入を絶対不可能とした場所。かつての埋め立て地だった場所は標高をマイナスに下げて領域を広げ、高みより隠匿のほうを優先させた結果、静かな海の底へと深く潜り込んだ。
 窓から見える海底の風景を珍しそうに眺めながら、ナムは上司に尋ねた。
「こんな場所から、どうやって忍び込むんですかね?」
「さてな」
 上司は分からないことははっきりと口に出す。
「そりゃそうですね」
 海底用の探索Dzoidは高価である。確か、サプライズでもサルベージ用のDzoidを販売していたと記憶しているが、売れ行きは芳しくなかったはずだ。サルベージ業者は一企業の法外なぼったくりよりも、昔ながらの堅実な方法で、海底の宝探しを続けている。
「開発部には初めて入ります」
「そうか」
 大して興味もなさそうな上司。
「”アガメムノン”を開発している部署は工業から生体科学に至るまで精鋭揃いの研究員が日々時間を惜しんで開発に注力している。専用OSとして開発された”FAIRY”は、”Dzoid”システムを的確に制御し、乗車する人間の思考を読み取り操作という人材にばらつきのある反射神経コストを省ける画期的な新製品だ。我が社の開発陣には頭が下がる」
 如月がほめるのを、ナムは信じられないものでも見るように見た。
「そんなものを狙うなんて、相手は大物だろうな」
 権之進が尋ねてきた事に、ナムは黙って無表情を装う。
「相手が何であろうと、盗まれたなら君の最大の失態だ。出世も遠のくだろう。永遠にな」
 如月の言葉に、権之進は少しだけ緊張を高めた。
 チン、という音がして、エレベータの表示がB30のランプでとまる。
 如月が先に出る。
 ナムと権之進も、その後に続いて入った。
 幾つも張られた有線ケーブルの巣。びっしりと並べられたディスプレイとその上で踊り狂う文字と幾何学図形のパラダイス。走っていないはずだが、研究員は皆誰もが次の瞬間には別の場所にいて、その結果を分析して結論を出しては成すべき次の事に着手している。
 彼らの前には全長10M近い人型の魔神が物言わず佇んでいた。数階に渡る大きさ、並のDzoidとは桁違いの迫力だ。無骨な機械の塊は見るものに威圧感を与えるため、漆黒の黒一色に染め上げられている。いろいろな場所から飛び出たチューブが不気味な緑色の明滅を繰り返し、こけおどしなのか武器なのか、口に当たる部分には2本の牙のようなものが生えている。吠え声でもあげそうな形相で、左右の目と上下の目、2対の複眼が地上にいるナムたちを睥睨していた。

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