「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 一瞬息を失った男に片腕を巻き付け、ぐぃと力を込める。
 チョークスリーパーが決まり、舌をつきだし悶える男。
「降参か?」
 ナムは男にではなく、未だ恨み深い恋人に向けて声を掛ける。
 ありさは形の良い眉をあげてナムを凝視した後、目を逸らして玄関へと向かった。
「あっ、おい!」
「来密。貴方はクビよ」
 目玉を剥き自分の主を見上げる男。
 怒りの表情を崩さず、女社長は高級なヒールの音を感情的に響かせて他のSPとともに玄関から出て行った。
 見送る二人の受付嬢。
「……あー。悪い」
 首を絞めたままで、ナムは謝った。
「これ、解いてもいいけど、そのあと俺に逆ギレしないと誓う? 誓わないよね。そりゃそうだよね」
 ふん!といって絞め落とすナム。
 可哀想に思ったので、次の転職先候補として、自分の名刺を背広のポケットに入れておく。
「しかし相変わらず、プライド高いお嬢様だ」
 服をはたきながら立ち上がると、ありさが出て行った玄関の方を向く。
「昔はそれも、良かったけどな」
 彼が女性嫌いになった理由だ。
「さて。どうしよう。部長に、電話するしかないのか……」
 頭が痛い。
 99.9%、丁重に冷たい言葉を承るに違いない。
「六道!?」
 驚きの声にそちらを向くと、見知った警官が自分の名前を呼んで口を開けていた。
「やぁ、乙女塚刑事。奇遇だな」
 駆けつけてきた本職の刑事にたいして、ナムは心から安堵の感情を乗せた。

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