「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

「少々お待ちください」
 笑顔を浮かべた二人の受付嬢が同時に声を発する。アンドロイドじゃないほうは大変だろうな、と苦笑する。
「――そのような案件は承っておりません」
 本社のアポイントメントサーバーへアクセスした結果をポニーテイルが口に出す。
「何? そんなはずないんだが――」
 他の人間ならともかく、如月に限って申請忘れなどという間抜けな事態はありえない。彼は効率を最優先して、必要なことをすべて事前に準備してから行動を起こす生粋の慎重派だ。ナムのところへきた段階で、必要となるあらゆる障壁は彼の手により障害と為しえないよう無力化されているはず。
 アポイントメントだって、間違いなく取っているはずなのだ。
「もう一度確認してくれないか?」
 同じ言葉を繰り返すアンドロイド。
「お客様」
 もう一人の受付嬢が尋ねてくる。不測の事態に備えての副次的な対応。
 そのために人間がいる。
「指定された開発登録コードは存在しません。もう一度ご確認のうえ、またの機会にご来場ください」
 ボブカットの女性は機械に負けず劣らず冷たい声を出す。
「そんなことはない! 俺はちゃんと如月部長から依頼されてきたんだ!」
 ばんっ! とカウンターに手を叩きつけるナム。受付嬢はその様子を見て、手元にあるスイッチを押した。
 ぶぃんぶぃん、と音が反響する。
「なんだ?」
「緊急事態発生。緊急事態発生。危険人物が所内に侵入しようとしています。警備員は至急A棟受付カウンターまで急行願います」
 ポニーテイルが恐ろしく冷静な声でとんでもないことを繰り返す。
 ザッザッザ!と几帳面にそろった足並みが聞こえ、武装した人型アンドロイドが電磁警棒を片手に押し寄せてくる。
「何でこうなる!」
『不審者発見。これより強制排除に入ります』
 ターゲット、ロックオン。
「うおおおぉぉぉ!!」
 逃げるナム。
 赤いゴーグルを閃かせて、警備アンドロイドが追いかけ始める。警棒には熊すら一撃でKOする電流が流れていて、触れでもしたらたちまち失神して黒焦げになることうけあいだ。
「納得いかない! 納得いかないぞ!!」
 大声で叫びながら、広いA棟の所内を走り回る。打ち合わせに来た他会社の営業マンがその様子を唖然とした様子で見ている。
「ドク! ドクはどこだ! こいつらの自立神経を麻痺させろ!」

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