「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
「そんなに過酷な労働なんですか?」 付いてきた穂ノ原が尋ねる。 デブは見栄え宜しくない様相で穂ノ原を見たあと、ドクと話すときとはまったく別人のような表情で(と本人は思っているようだ)語った。 オタクの挙動はわかりやすい。 「過酷なんてモンじゃないでヤンス。ローマ時代の奴隷制度が現代に復活したくらい悲惨でヤンス」 「それじゃ吾輩たちはこれで」 スタスタと帰ろうとすると、デブは予想より素早い動きでドクの前を塞いだ。 「そうはいかないでヤンス! もう期限まで時間がないでヤンス! あんたたちで決定でヤンス!」 「就職選択の自由というのが、国家に保障されているはずだ」 目の前を塞ぐ肉の壁に、ドクは冷静に自由主義を掲げる。 「そ、そんなもの、悪党の 「行くぞ穂ノ原」 デブの脇を素通りして入ってきた出口へ向かう。 「お待ちなさい!」 ハスキーボイスが道をふさいだ。 「貴方たち! 我らの秘密を知って大人しく帰ることが出来ると思っていますの!?」 「ぴ、ピンク様ッ!!」 畏れたように振り向くデブ。 「穂ノ原。あれは何に見える」 ドクは横に立つ新米社員に尋ねた。 「子供ですね」 「ああ。吾輩にも子供に見える」 「子供じゃないもん! 怪盗ピンクだもん!」 ピンク色のワンピースを着た背の低い子供が、ネットで見かけた”怪盗ピンク”のお面――目だけを隠す舞踏会の仮面、を付けて出口を塞いでいる。 「JAR○に訴えるぞ」 ドクは自分より背が低い子供に言った。 「な、なんて失礼な輩ですの! ガリ! ブッチョ! やっておしまいなさいですの!」 「ぴ、ピンク様! 我ら肉体労働は苦手でヤンス!」 「そうでゲス! そんな暇があるなら早いところこいつの修理に時間を当てるでゲス!」 「言うことを聞きなさい!!」 ぱしんっ! と、ワンピースの袂からムチを取り出し、堅いコンクリートを打つ。 「これが”怪盗ピンク”」 「そうみたいですね」 目の前の子供がその正体だというなら、一刻も早く帰ってナムに伝えねばなるまい。 ガキの遊びであったと。 そして、ヤキを入れてやる。 「キミが、”怪盗ピンク”か?」 |