「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

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 怪盗のアジトというのに初めて入ったが、これほど思ったとおりであるとは思わなかった。
 廃工場。
 東京湾近くの倉庫街の一角が、”怪盗ピンク”のアジトらしい。
 人気のない建物の中へ道案内を申し出てくれたデブでバンダナを巻いた典型的な手下一号が奥へと案内してくれる。
「いやー良かったでヤンス。人手不足でホントに今日の仕事に間に合うか分からないところでヤンしたから、大助かりでヤンス」
 メールを出すと速攻電話がかかってきた。あまりのレスポンスの速さにナムとともに罠ではないかと怪しんだくらいだ。電話に出たのは神経質そうな男の声だったので、今の目の前の男で陽気に話している人間と同一人物とは思えない。
 最低でも、”怪盗ピンク”の手下は二人いるということだ。
 それにしても。とドクは思う。
 はらいせに電話の宛先を思いっきり特7課の直通電話にしておいたのだが、まったく相手は気づかなかったようだ。少しは深刻な事態になると踏んでいたのに、肩すかしをくった感じである。
 倉庫の中には、Dzoidが一体。『タンク』と呼ばれる一世代前の足がキャタピラタイプのものだ。型も旧式で青い塗装すらハゲている。その肩にキャタツを掛けて、えっちらおっちら板金を運んでは修理の火花を散らしている線の細い男。
「ガリー! バイトの人を連れてきたっすよー!!」
 ガリを呼ばれた細い男は、防火マスクをパカリと開けてドクたちを見下ろした
「ここは子供立ち入り禁止でゲス!」
 見るなり怒り出す。
「何度も言ってるでゲス! ここは遊び場じゃないでゲス! ブッチョ、おまえ見張りすら出来ないんでゲスか!?」
「子供じゃないでヤンス。バイトでヤンス」
「そうやって何回からかわれたら気が済むんでゲス! ちっとは経験から学ぶでゲス!」
「嘘じゃないでヤンス! ちゃんと言われたとおり、この子たちは入会金も払ったでヤンス」
 この建物に入るとき、1000円渡したあれが入会金だったのか。とドクは思った。
 なんつーか、わざわざアジトに侵入しなくてももう良さそうな気がする。
「あのー」
 ドクは声を掛けた。
「何でヤンス?」
 振り返る汗だくのデブ。
「どうも職場が自分とあわないのでやめたいんですけど」
「そんな! 会って10分で即決なんて、無駄に決断力高すぎでヤンス!」
 デブがオタオタと慌て始める。
 金取られた分、こちらが詐欺にあっているはずだが。

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