「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

「俺たちよりもひどいのかな?」
「彼らにも休みくらいはあるだろう」
「俺たちは下の下か」
「そうだな、下の下だ」
 フフフ、と二人セットで陰気に笑う。
「それはさておき、怪盗ピンクとやらも、そういった輩の一人なのだろう」
「……そういった輩相手にまともにやりあおうなんて、俺はこの会社の神経をまず疑う」
「それだけ”アガメムノン”とやら重要なのではないか?」
 ドクはため息をついた。
「すぐに探せると思ったのだが、どうにもいかんな」
 キーボードを引っ張り起こすと、2、3タッチする。
『VOICE』と大きなロゴが浮かび上がると、周りのモニタに大小さまざまなウインドウが表示される。
「なんだそれは?」
 顔を突き出し、浮かび上がったロゴの説明を尋ねるナム。
「検索AIを組み込んだネット探索ツールだ。吾輩の疑似知能と同じレベルでものを考え、情報の取捨選択をしてくれる」
 えらそうに胸を張ったドクの前のモニタに、端のほうからひょこりと小人みたいなキャラクタが現れる。
 同じように胸をはる。
「これか?」
 ナムが指を刺すと、モニタの中の小人のドクが怒った。
「あ。悪い」
「よく出来ているだろう?」
 ドクがニヤニヤ笑いながら小人のドクとモニタ越しにスキンシップをとる。
「これ、ひょっとお前が作ったのか?」
「わかるか? ”TRIDENTS”に独自の思考型アルゴリズムを組み込み、”小さな小人”を実現した。眠っていても作業をしてくれる貴重な妖精さんだ」
「そういや、たまにお前寝てるよな」
 ドクの目がそれる。
「ま、まさか。勤務中に”MYドクくん”など使っているはずがなかろう」
「どうでもいいけどな」
”MYドクくん”とやらは、5つのモニタの中を行ったり来たりしながら、目的の情報探索を始めたようだ。
「しばらくかかる。少し休憩でもするか」
 精一杯に伸びをして、ドクが背もたれに小さな背中をうずもれさせる。
 ナムも自分の席へと戻ると、机の上にあった書類の束に目を通す。
 ほとんどが残業申請書だ。
 見る気も起きずに次々ハンコを押していく。一応企業という体裁のため、残業するには36協定が結ばれている。月の残業時間は労使の基準労働時間とともに決められており、もしそれ以上に仕事がかかりそうであれば、申請書を出して上司に許可をもらわなければならない。つまり、行き過ぎた労働時間のストッパー的役割を担っているといっていい。

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