「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
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問答無用に『許可』の用紙が積み重ねられていく。 すべてに紙に捺印した後、ナムは一息入れようと席を立った。 窓際に常備しているコーヒーメーカーを手に席へと戻ると、ドリップペーパーを差し込んで挽かれたブレンドの豆を注ぎ込む。部下たちのいるオフィスのほうへ出かけ、きゅうすを探す。 見つからない。 「あれ？ おい、きゅうす知らないか？」 「ああ、それなら穂ノ原が持っていきましたよ。お茶入れるって」 「ああ、そう」 部下に礼を言って自分の執務室へ戻る。コーヒーメーカーで旨いコーヒーを作り出すにはいささかコツがいる。それはまず、どうやってお湯を入れるかだ。わずかずつ蒸らせながら入れる。ゆっくりとまわしながらまんべんなく注ぐ。急須はちょっとしたお湯加減を使うのにもってこいの入れ物なのだ。 「あっ、課長！ お帰りなさいませ！」 明るく振り返る穂ノ原の手元を見る。 どばどばどばどば… コーヒーメーカーに向けて滝のように湯気が吸い込まれていく。 「ああああああああああああああああああ！！！」 ナムの声にびっくりした様子で起き上がるドク。 眠っていた彼を注意する余裕もなく、ナムは穂ノ原の元へ駆けつけるときゅうすを奪い取った。 「おあつ！ アチチチチ！！」 中身がこぼれる。 「課長！ どうしたんですか？ そんなに慌てて」 「お、俺のコーヒーが……」 ボタボタと半透明な色で落ちていく自腹のドリップコーヒーの失敗作に、思わず涙が出る。 しかも若干緑がかってるし。 「穂ノ原君。なんてことをしてくれたんだ」 「はい！ 課長にお茶を入れようと思って！」 悪気がないのはわかっている。だが、どうしても、ドリップコーヒーにお茶を注ぎ込むその神経が許せない。 「……しばらくその出口のところに立っておいてくれないか？」 「はい？ 何故でしょう？」 「罰としてだ」 無駄になったコーヒー豆に黙祷をささげながら、ナムは断固たる口調で告げた。 「罰？ ホノはなにか、悪いことをしたでしょうか？」 自分のことをホノなどというその無神経な可愛らしさが今のナムには頭に来る。 「そうだ。だからそこに立っていなさい」 「はい！ それが命令ならば！」 扉の横で気ヲ付ケする新米社員。 |