「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

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 インターネットという電子の世界は情報を見繕うには最適な道具だ。
 検索対象のキーワードを入力し、Enter。出てくるいくつものサイト。キーワードに引っかかった関連サイトの中から、適当なものみつくろってクリックする。
「なぁ、ドク」
 目の前にでてきたアダルトサイトの広告を横から見ながら、ナムは尋ねた。
「お前はこの件、どう思うよ?」
「いいではないか」
 別のサイトをクリックしながら、ドクが答える。
「怪盗……一度この目で見たいとは思わんか?」
「見たくない。一生できれば関わりたくない」
「好奇心のないヤツだな」
 マイナスオーラ全開の上司に、ドクは呆れた声を上げた。
「怪盗というものが現実に存在していたなら、保存せねばならん貴重な文化遺産だぞ」
「おまえの考えも間違っていると思う」
 怪盗ピンクの予告状とやらの、偏ったイメージデザインの絵を見る。
「すごくないか?」
「何がだ?」
「こういうデザインのカードを一流企業に堂々と送りつけてくるのって、かなり度胸があるヤツだと思うぜ?」
「そうだな」
 どこをクリックしても情報が見当たらないので、ドクは少し苛立っている。
「しかもだ。それを真に受けるこの会社もどうかしているんじゃないか?」
 例えばだ。
 名刺代わりにこのようなトレーディングカードを相手が出してきたとしよう。俺なら間違いなくその取引先との相手をやめる。なおかつ以後一生その会社からの電話は居留守を使って出ることもないだろう。
「最近はアニメや2次元のキャラクタを自社のPRに用いる会社も増えてきた。キミの生まれた国のひとつの文化がようやく正式な著作物として認められてきたのだ。少しは前向きな考えをもってはどうだ?」
 日本の「ANIME」や「MANGA」が世界的なブームとなり、世界中でオタクと呼ばれる人種を生み出したのが今世紀の初頭。以来、日本はそういった輩のメッカとして、尊敬とまなざしのナマ暖かい目で見られている。
 ナマ暖かい目だ。
 どう考えてみても、奴らの目はまともな視線ではない気がする。
 それでも、日々その侵略度合いは着々と進み、かつて子供の頃にアニメや漫画で青春を謳歌した大人が国をつくる原動力となった昨今、そういったものを毛嫌いするアレルギー体質の親父さんやお袋さんがきわめて少数のマイノリティとなったのも事実だ。
 サブカルチャーというもののは宇宙人より怖い。
「だが聞いた話では、そういった職につく彼らの月給たるやひどい有様だと言う話だ。そもそも初代の漫画家が薄給でアニメ化を請け負ったのが悲劇の始まりだとも言われていたな」

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