「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

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「――というわけで、この7課はサプライズの特殊案件の実務課であり、警察機構の一つである。わかったか?」
「はい!」
 元気よく返事をするその瞳に、不安な目を向ける。
「本当に分かったのだろうね」
「はい! 私たちは弱者の味方です!」
「……否定するのも悪いので黙っておこう」
 利潤追求が主目的である企業と、無償をポリシーとする公的な正義の味方。
 給料サラリーを貰っている側としては、どちらに付くかは明白だった。
「昨日我々は、大きなヤマを解決させた。束の間の平和くらい、何者にも邪魔されず噛みしめたと思うのは、当然ではないか」
「失礼する」
 開けっ放しの課長室のドアをノックし、きっちりアイロンの当てられたスーツを着た背の高い男が入ってくる。
 ナムとドクはその顔を見るなり、10歳ほど老けた顔つきになる。
「お早よう」
 眼鏡を押し込み、スーツの男は部屋の惨状を見渡した。
 ある程度片付けたものの、いまだドクの散らかした資料が何点か床に転がっている。
「課内は清潔であるべきだ。仕事を効率よく行うためには、整理整頓しておいてこそ必要な情報をスムーズにとりだせるメリットがある。違うかね。六道君」
「おっしゃるとおりです。如月部長」
 またタイミングの悪いところで入ってくる、という感情を苦笑とともに顔に出す。
 如月は手に持っていた書類を抱え直すと、来客用に用意してあるソファへと真っ直ぐ歩いて直角に座った。
 一切無駄な動きがなく、まるでロボットのように正確な最短距離。
 背もたれにも深くは腰掛けず、すぐに立ち上がれるよう背筋はきちんと伸ばされている。
「穂ノ原君。お茶を」
 ナムはまず、新米社員を追い出すことに決めた。
「はい!」ビシッ、と敬礼して走って出て行く穂ノ原ほのか。
 まったく分かっていない、とナムは眉間を指で詰まんだ。
「……今日は、どうしたんですか?」
 すっかり冷めてしまったコーヒーに口を付け、尋ねる。
「あの子の様子はどうかね」
「は?」
 世間話を振ってきた上司に、ナムはきょとんとした顔を向けた。
 明日の天気は雪だったろうか。
 真剣に悩んでみる。
「穂ノ原くんだ。よくやってくれているか?」

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