「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
/ 3 / 「――というわけで、この7課はサプライズの特殊案件の実務課であり、警察機構の一つである。わかったか?」 「はい!」 元気よく返事をするその瞳に、不安な目を向ける。 「本当に分かったのだろうね」 「はい! 私たちは弱者の味方です!」 「……否定するのも悪いので黙っておこう」 利潤追求が主目的である企業と、無償をポリシーとする公的な正義の味方。 「昨日我々は、大きなヤマを解決させた。束の間の平和くらい、何者にも邪魔されず噛みしめたと思うのは、当然ではないか」 「失礼する」 開けっ放しの課長室のドアをノックし、きっちりアイロンの当てられたスーツを着た背の高い男が入ってくる。 ナムとドクはその顔を見るなり、10歳ほど老けた顔つきになる。 「お早よう」 眼鏡を押し込み、スーツの男は部屋の惨状を見渡した。 ある程度片付けたものの、いまだドクの散らかした資料が何点か床に転がっている。 「課内は清潔であるべきだ。仕事を効率よく行うためには、整理整頓しておいてこそ必要な情報をスムーズにとりだせるメリットがある。違うかね。六道君」 「おっしゃるとおりです。如月部長」 またタイミングの悪いところで入ってくる、という感情を苦笑とともに顔に出す。 如月は手に持っていた書類を抱え直すと、来客用に用意してあるソファへと真っ直ぐ歩いて直角に座った。 一切無駄な動きがなく、まるでロボットのように正確な最短距離。 背もたれにも深くは腰掛けず、すぐに立ち上がれるよう背筋はきちんと伸ばされている。 「穂ノ原君。お茶を」 ナムはまず、新米社員を追い出すことに決めた。 「はい!」ビシッ、と敬礼して走って出て行く穂ノ原ほのか。 まったく分かっていない、とナムは眉間を指で詰まんだ。 「……今日は、どうしたんですか?」 すっかり冷めてしまったコーヒーに口を付け、尋ねる。 「あの子の様子はどうかね」 「は?」 世間話を振ってきた上司に、ナムはきょとんとした顔を向けた。 明日の天気は雪だったろうか。 真剣に悩んでみる。 「穂ノ原くんだ。よくやってくれているか?」 |