「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 眼鏡の奥のオッドアイが怒りの熱気で同じ色に染まっていた。
「はい! セイレン先輩!」
 ドクの役所への登録名称はイルカヤ・セイレン。国籍はイギリス、らしい。機械工学と電子工学の博士号、それからもう一つ日本では認められていない博士号をもっている。残念なことに経済学の博士号は持っていない。
 穂ノ原は犬が尻尾を振るように、喜んで憤怒の表情を浮かべたドクの元へ近づいていった。
 手で顔を覆うナム。
「キサマぁぁ、何をしたか分かっているのかぁぁぁ」
 1オクターブ低い声で電話機を持ち上げて、ドクは裁きの鉄槌をくだすべく狙いを定める。
「なんですかぁ」
「シュートゥ!!」
 投げつける。
 電話機はナムの顔面にぶつかった。
「あ! 避けたな!」
 動いてもいない。
「どうして怒ってるんですか?」
「これが怒らずにいられるモノかぁ! 取引の真っ最中にコンセントを断線させおって、負けた損益の10%を還元しろ!」
 安いモノだ。と巻き付いた電話機のコードを取り除きつつナムは思った。
「今年度のだ!」
 すでにどのくらい出しているのか測りかねる。
「ええ、でもぉ」
「デモもクラシーも板垣退助もあるモノか! 吾輩に必要なのはイッツマネーだ!」
「コンセントじゃないのか」
 ナムは発言は軽く無視される。
 黙って電話機を片付けるナム。
「出来ないならその体で稼げ! 人間最後には自分自身が資本だ!」
「お仕事中にプライベートなことをしてるのはいいんですか」
 机の上で書類をまき散らしていたドクの眼鏡がずるりとズレる。
「な、なんのことだか」
 思っていなかったまともな反撃にするするとデスクの上から滑り落ち、モニターの壁の内側に引っ込むドク。
 5つの液晶モニターがバリケード代わりになる。
「セイレン先輩が就労時間にお仕事サボってバイトに精を出してたこと、部長に報告してもイイならいいですけど」
「そ、それは! 重労働にもかかわらず薄給で仕事を押しつけるこの会社が悪いのだ」
 すでに逃げに出ている。
「そうですよねぇ。この会社って、大きい割にお給料安いですよね」
「そうだろ! そうおもうであろう!」

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