「-HOUND DOG- #echoes.」

プロローグ

 息継ぎ。
「北側の出口を封鎖しろ」
『了解』
 返事が返ってくる。
「二番機は上野の動物たちの安全を守れ。現在彼らは貴重な進化の遺産だ」
『了解』
「三番機は東側の出口だ。ついでに美術館と博物館を死守しろ。おれはまだ入ったことがないんでな」
『り、了解』
「四番機は西側の池に散開しろ。ボートになど乗るな。転覆させるぞ」
『乗りませんよ!』
「いい返事だ。男同士でボートに乗るなど常軌を逸している。五番機はそのまま待機して俺の指示を待て」
『了解しました』
「六番機は上野駅に集まった馬鹿どもを掃除しろ。見物客は迷惑以外の何者でもない」
『ラジャ』
「七番機は西郷どんの石像を壊されるな。――八番機は」
 気前よく回っていた舌の回転が止まる。
『07どうした』
 ジ……ジジ……ザ……ザ…
「やられたな」
 ドクの声。
 即座に指示を繰り替える。
「全員中央へ進め。七番機のタダシがやられた。再起不能かもしれん」
『『了解』』
 ドアを閉めると、先ほどはね飛ばされ警官が窓を叩いてくる。
 どこかで見た顔だったが、無視だ。
「おっと、シートベルトをしないとな」
 急いでいるのかいないのか、黒いベルトを肩から腰に巻くとアクセルを踏み込む。
 ブロロッ! と黒い排気ガスをまき散らしながら、白黒の車が発車する。
 ハンドルを的確に切りつつ、歩いている障害物や止まっている障害物や連絡を取っている障害物を避けて進む。どれも度肝を抜かれた表情を浮かべ、暴走車に巻き込まれまいと喜んで道を空けてくれた。
 西郷どんの石像へ付くと、明治時代の偉大な革命家は見るも無惨な瓦礫の塊と化して転がっていた。
「……遅かったか」
「課長!!」
 慌てた様子で、死んでいたと思っていた斉藤正くん(平社員)が走ってくる。
「なんだ、生きていたのか」
「そ、そりゃないですよ」
「なに、葬式代が浮いた。よくやった」

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