「-HOUND DOG- #echoes.」

プロローグ

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 人の”規格外”になれと、俺は教えられた。
 いくつか方法はある。
 例えば、人造人間――サイボーグだ。何も全身機械とならなくてもいい。右腕一本だけでも、立派なサイボーグの仲間入りだ。医者の許可さえあれば、どこだろうと鋼の肉体を得ることが出来る。
 ただし、ひとたび手術を受ければ人間ヒューマンのカテゴリから外されることには注意すべきだ。生身の肉体を競うオリンピックには出場できないし、月に一度のかかりつけは病院ではなく油と火花飛び散るメンテナンス工房が行き先になる。華やかなナースの微笑みでなく、無骨なオヤジの愛想笑いが見たいならもれなくメカニティ・ライフをお勧めする。
 似たような感覚でいえば、日米合作で共同開発され、戦場投入された強化装甲という手もある。政界各地の紛争地区で活躍中の戦場歩兵。
 もちろん着脱可能で、生身の上から分厚い強化プラスチック製の全身擬態フルアーマーを身につけると、気分はサイボーグだ。腕を振れば敵兵は数Mを吹っ飛ぶし、100Mを3秒で駆ける足を手に入れる。おまけの背丈も1.5倍で女にもてるかもしれない。
 だが、これにはひとつ条件がある。たった一つの条件は至極簡単シンプルだ。国に忠誠を誓うこと。さすれば、喜んで政府はその殊勝な心に、強殻装甲をつけて死地へと送りつける要員に数えてくれる。
 機械のヨロイを身に着けるには、愛国心と常日頃からアドレナリン全開ですれ違う人、人、人に敵意むき出しでいるような奴が都合がいい。自国にいても有害な邪魔者を、敵地に送り込んで活用できる。最高の人材リサイクルだ。
 最後に、もっとも楽で、かつ今流行りの手段を教えよう。
 それは、Dzoidというヒト型産業機械に搭乗することだ。3秒で、すぐに巨人思考に取り付かれて破壊衝動に突き動かされる。そういう連中に安全運転といった言葉は空気と一緒だ。右から左に抜けていく。
 二足歩行のロボットはもはやありふれた日常風景として埋没し、それを利用した犯罪事件も右肩上がり。先端技術を間違った方向に活用し、先の人生を棒に振る。その考えは呆れこそすれ、同情の余地は一切無い。
「ナム、聞こえるか」
 車内の無線をとる。
「ああ、聞こえる」
『部隊を展開した。指示をくれ』
「これで全部に繋がるのか?」
『ああ、バッチリ』
「さすがドク」
 横のドアを蹴りつけて開けると、近くにいた警官がはじき飛ばされて転がった。
 気づかなかったふりをする。
「聞け! 相手は脱獄した凶悪犯だ。逃亡の途中で民間人の乗ったDzoidを強奪し、怪我を負わせている。重罪だ。捜査一課のご協力により犯人を追い詰めたが、上野公園に陣取って未だ抵抗の意志を見せている。捜査一課がわざわざ俺たちに手柄を与えてくれた意味がわかるな? もう後がないと言う意味だ。ここで奴を取り押さえなければ警察は明日の記者会見で全面的な敗北演説を行うことになる。気合いを入れていけ。一番機は――」

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