「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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「――わかりやすい方」
 ガラスの向こうに目をむけ、東香月はつぶやいた。
「は? なにか?」
 運転手兼警護役である木暮(こぐれ)が不審げにたずねてくる。
 それにこたえず、校舎へ向かう少女のうしろ姿に目をとどめる。
――われらが守るは血が定め。
 遠い背中に語りかける。
 遠い過去にむすんだ宿縁(しゅくえん)に縛られ、その代償としての富。名声。地位の約束。
 知るものである我らは定めと受けいれよう。
 知らぬものである彼女は、理不尽な搾取(さくしゅ)になにをおもうのか。
 憤り。
 嘆き。
 無関心。
 いかにせよ、たどりつく先は透徹(とうてつ)
 あきらめ、と言いかえてもよい。
 ままなるようでいて、ままならぬ身。
 (えにし)の糸は、もがけばもがくほど身にからみ、(とき)へた年月を吸って重く、限られた生を縛りつける。
 あがいたあげく、(あの子)のように散ってしまう。
 それならば――
 なにも望まぬが道理。
 ながされるまま、水のながれにたゆとうままに――
 少女が校舎へと消えるまで見おくり、前をむいた彼女は、いつもとかわらぬ口調で命じる。
「出して」




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