「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

「では放課後、お迎えにあがります。あなた様とともに出かけたい場所がありますので」
「それでは」としとやかにおじぎをし、長い髪をなびかせて東香月は去っていった。
 これはもしや。
 どきどきと心臓の音がさわぎだす。
「デェトの申し出!?」
「認めんぞぉぉぉぉおおおおお!!!」
 腹の底からのさけび声が校庭にこだました。
「日和いぃぃぃぃ!! お前は男と男の友情でなく、女とのお出かけをとるのかァァァ!!」
 志村だった。
 泣いていた。
「そんな軽薄な男だとは、おれはおもっていなかった!」
「なんだよ急に!! 友情がどうという以前に、先にしかけてきたのおまえじゃん!」
「日和! おまえにはまだ早い! 妙齢の女の子とのツーショットなど!!!」
 泣きながら肩をつかんできた。
「たのむ日和! いかないと言ってくれ!!」
「志村……」
 痛いな、とおもいながら、必死にさとしてくる友に哀れみのまなざしをむける
「俺、今日、大人になるよ」
「ばかちんがッ!」
 グーで殴られた。
「いてーよ! なにすんだよ!」
「いいだろう、日和。おまえがそこまで言うならば、もはや言葉は不要」
 志村の周りに、立ちなおったらしいハチマキの連中がそろい踏みする。
「わが連合が、全霊をもってきさまの恋愛成就の邪魔をする!」
 本気の目だった。
 嫉妬の炎がメラメラと燃えている。
 オレは今、友情というものが、どれほどちっぽけで儚いものか、まざまざとみせつけられた!
「我らはこれより修羅にはいる」
 うむ。と勢ぞろいしたハチマキが頷く。
「手はじめに今日の昼休み、楽しみにしておくことだな」
「やることおなじじゃねーか! どこが修羅だよ!」
「ふーん、今日も来たんだ」
 戦慄。
 志村以下ハチマキ衆が、日和の背後に目をむけたあと、一目散に逃げだした。
 濃密な殺気に、おそれおののき固まる身体。
「お早う、春日くん」
 すっ、と横にならんだのは、笑顔をうかべた南雲美鈴だった。学生鞄を両手でさげている。
「またお弁当、つくってもらったんだ」



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