「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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 カササササ。
 (かげ)から蔭へと移動する不穏な影。
 早朝の登校風景に異質な分子がまぎれこんでいる。
「――やつらはいないようだ」
 (かげ)りのある表情でつぶやくと、路地裏から出て次の隠れ位置にむかう。
「きゃっ!」ぶつかりそうになった女生徒が悲鳴をあげて身をひく。
 赤いポストの裏に入る。
――残り100M。無事にたどり着けるか?
 登校する学生たちが不審げにとおり過ぎていく。
「……よし」
 一気に駆けぬける!!
 ポストから飛びだすと、おどろく周りを尻目に校門へといそぐ。
「日和さま」
「へ?」
 わきから声をかけられ、校門のレールにけつまづく。
「うおぉぉわわぁぁぁああえええええ!?」
 ごろごろごろといきおいにまかせて転がると、土ぼこりをあげてグラウンドにつっ伏した。
 それを避けてとおる生徒たち。
「…………」
 自力で立ちあがると、よごれた学生服をパンパン、とはたき、なにごともなかったように校門までもどった。
「おはようございます! 香月さん!」
「お早うございます。お怪我はありませんの?」
 さほど心配もしてない様子で、香月は日和にたずねた。
「ふっ、この程度。猫にかぐられたレベルですよ」
「まぁ。(たくま)しいのですね」
 ほめられて天狗(てんぐ)になる。
「ええ、ノラ猫との格闘は日常茶飯事です」
「猫?」
「やつらをなめちゃいけません」
 キッパリ断言する日和に、東香月は首をかしげてみせた。
 サラリとした長い髪がゆれて、切れ長の瞳に見つめられる。
 ぽーっ、となった。
「……どどど、どうして、今日は、ここに?」
 あせってしまう。
「本日もお弁当をお作りしましたので」
 ほそい腕で支えられた重箱が差しだされる。
「マジすか!?」



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