「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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 ガラリ、と階下から引き戸をあける音がした。
 ビクリとして、私はカガミから目をはなす。
 時計の針は、21時をまわっている。
「もうこんな時間……!」
 夕食の用意もしていない。
 おじいちゃんが帰ってきちゃった!
 いそいで階段をおりると、帰宅した祖父とハチあわせした。
「あ、お、おかえりなさい……」
「どうした?」
 ブスッ、とした渋面は祖父の普段の顔だった。笑った顔なんてみたことない。
「服」
 言われてはじめて、学校の制服のままであることにきづく。
 いつもなら帰ってすぐ私服に着替えるのに、今日はお客様がみえられて、それで――
「ほんとだ。着替えなきゃ」
 また二階へもどろうとすると、
「だれか来たのか?」
 祖父が聞いてきた。
「ううん、だれも」
 自分でもおどろくほど、そっけなく口からついてでた。
 嘘。
「そうか」
 うたがうことなく、居間のふすまをあけて入っていった。
 どうして?
 漠然(ばくぜん)とかんがえながら、自分の部屋にもどってくるなりカギをかける。
 背中をドアに押しつける。
(なんで嘘なんかついたの? たったふたりの家族なのに――)
 ちからが抜けて、ズルズルとくずれる。
(どうしちゃったんだろう、私)
 床にころがるカガミ。
 おもい体をひきずって、むこう側をのぞきこむ。
――そんなことどうでもいいじゃない。
 カガミのなかの自分がしゃべる。
 そうね。
 きっとどうでもいいこと。
――あなたがのぞむものはそうじゃないでしょう?
 ええ、そう。
 私がのぞむモノは私のしあわせ。
 私以外のみんなが不幸になること。
 私をいじめた人、馬鹿にした人、無視した人、みんなみんな、大キライ。
 私の顔が微笑(わら)う。
 ほこらしげに彩るオシャレな小物。
 可憐にふくらむバラ色のくちびる。
 ソバカスのないキレイな肌。
 きらめく大つぶの瞳。
 私の夢みた私。
 カガミのなかの私は、別人のように美しく着飾っていた。




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