「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 ハッ、と大沢木を見あげた日和は、すなおに電話番号を口にした。
 ダイヤルをプッシュし、つながるのを待つ。
「チャリがあれば戻ってもよかったんだけどね」
 だれに対する言い訳か。
 ガチャリと音がして、誰かが出たようだ。
『なにかの』
「――金剛のオッサン?」
『ふむ、その声はイチローじゃな』
 の太い声に苦笑する。
 野球選手みたいな下の名前でよぶのは、このオッサンだけだ。
「そういや、お()さんは出かけてるんだったっけ。留守番してんの?」
『そうじゃ。小娘め、ワシを丁稚(でっち)(あつかい)しよってからに』
「ま、いいや。”一刻堂”ってトコによ、お()さんにたのまれたモノを取りにきたんだけどよ、追いかえされちまった」
『ふむ?』
 首をかしげた様子がつたわる。
『その品はなんじゃ?』
「年代物のカガミなんだけどよ。俺たちじゃわたしてくれねーんだよ。本人じゃなけりゃあ、ってさ」
『カガミ? 聞いておらんな』
 受話器のむこうで考えこんでいるようだ。
「とにかく、俺たちじゃラチあかねーんで、お師さんに自分で取りにいってもらうよう、言づてたのむよ」
『おぬしまでワシを丁稚あつかいか!』
 不満げな声をなだめすかす。
「ついでだからたのむよ。このとおり」
 といって、電話をもっていないほうの手でおがむマネをした。
『ふん。わかったわい』
 ガチャン、と荒く電話は切れた。
 やれやれ。
 日和に目をむけると、戦々恐々とした様子で自分の言葉を待っている。
「――金剛のオッサンがでた」
「なんで!?」
「家の電話なんだからあのオッサンしか居なかったんだろ」
「師匠との直通のはずなのに!」
「帰るか」
 意気消沈する肩をたたき、ふたりで家路へとついたのだった。




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