「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

「そのくらい聞いとけよ。この()も困ってるじゃねーか」
 少女は手鏡をのぞきこんだまま、ぼぅ、としていた。
「とにかく持って帰るね、それ」
 日和が手をさしのべても反応がない。
「ふっ、照れてるのかい?」
「渡してくれねぇか、そのカガミ」
 大沢木に声をかけられることで、少女は反応をみせた。
「……え?」
「お()さんに、俺たちが届けてやるよ」
 大沢木の顔をながめた後、のろのろと鏡に目をむける。
「……これ、()っちゃうんですか?」
「そのために来たんだよ。さっさとわたしてくれねえか?」
「あの……お爺ちゃんがいないので」
 少女は鏡をかばうようにふところに抱いた。
「今日は、帰ってくれませんか?」
「ああ?」
 不機嫌な声をだした途端、肩をビクつかせて少女はうつむいた。
「本当に、渡していいかわからないし、あなたたちが巫女様のおつかいの人だって、その、保証も、ないし」
 言葉を(にご)らせてつぶやく少女に、大沢木は日和を顔を見合わせた。
(なんか、苦しい言い訳してるように聞こえるんですけど)
(そうだな)
 わざわざ持ってきて、出ししぶるその行動がわからない。
「疑うってんなら仕方ねぇけどよ。こっちもガキの使いじゃねえんだ」
「オレたちガキの使いだぜいっちゃん」
 突っこむな、と目でだまらせる。
「証明するモノならあるぜ!」
 その眼力にも持ち前の無頓着(むとんちゃく)ぶりでスルーし、日和は不敵に言い放つ。
「マジか、やるなひーちゃん!」
「これだッ!」
 と言って、日和がふところから取りだしたものを高々とかざす。
 薄桃色のこぶりなサイズの布きれは、ひらひらと舞って日和の頭にヒモの端をのせた。
「このピンクのブラジャー! これが師匠のバストサイズを物語っている!」
「死ねよ!」
 右ブローは的確にみぞおちをとらえ、「ぐふっ」とうめいて日和はひざからくずれ落ちた。
「……わたさん、わたさんぞォォォ……この宝だけは――ッ!!」
 腹を押さえてもだえながらも、個人的な宝をまもろうとする執念には見上げたものがある。
 などと大沢木はおもわなかった。
「すいません! また別の日に来てください――!!」



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