「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 女のコの胸を見つめたまま硬直した親友をはたいて起こす。
「なにするんだいっちゃん!」
「早いトコ用件すませろ。いつまで女の胸みてニヤついてんだよ」
「ニヤついてねーよ! ニヤついてねーけど――ニヤついてないよね??」
 同意を求められた少女は、ビクッ、とふるえて大沢木の背後に隠れた。
「チクショウ! 男って性分がァーーー!」
「いい加減にしねーとお()さんに言いつけるぜ?」
「親友にもうらぎられたァァァ!!」
 石畳の床をたたいて嘆くこと十秒。
「轟あえかさまの命により、こちらに荷物を授かりに参上いたしました」
 すっくと立ちあがり、真面目な顔で頭を下げる。
「トドロキ……? ああ、鳴神坂(なるかみざか)の巫女様のことですね。おじいちゃんからお話は聞いています」
 面くらって目をしばたたかせるも、すなおに奥座敷へとつづくのれんをくぐっていく少女。
 姿が消えてから、日和は横にいる大沢木に声をかけた。
「あの子、今日いっちゃんが助けた子だぜ」
「助けた? 俺がか?」
 頭をかしげる大沢木に、わざとらしくかぶりをふる日和。
「自分を助けてくれた王子様と偶然の出会い。彼女はきっと運命を感じたことだろう」
「……おまえが言うとうさんくせェな」
「しかし王子様は自分を知らないという。もしや記憶喪失の病に!? と彼女はおもったにちがいない」
「するどいのかバカなのか、いまだに俺はおまえがわからねえよ」
「やだなぁいっちゃん、そんな()めないでよ」
「……そうか。すまねぇ」
 少女が戻ってきたので、適当に切りあげた。
「これだと思うんですけど……」
 不安そうにそろそろと、ていねいにくるまれた布をさしだした。
 日和に目をむけると、
「たぶんそれ」
 あきれるほど適当な返事をして受けとろうとする。
「え、えっと、一応中身を……」
 手をだしたままの日和をさしおき、慎重に布を取りのぞく。
 手鏡だった。
 まるい鏡に取ってのついた、どこにでもありそうな代物である。ただし、ふちが黒ずみ、ところどころメッキがはげかかっているずいぶんな年代物だった。
「えー? それなの?」
 不満そうな声をあげたのは日和である。
「ちげーのか?」
「いや、オレも知らないんだよね」



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