「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

「ああ、わりぃ」
 素直にもとの位置にもどす。
「客じゃねえんだ、オレたち」
 弁解しようと顔をあげた途端、少女は目もあわせずに頭を下げた。
「あの、その……お、おひさしぶりです!」
「あ? ああ」
 九十度ちかい角度で下げられた頭にわけもわからずうなずく。
「あああ、ち、ちがいました! さささ、さっきは、そそそ、その、わた、わたしのせいで――」
「きゃああああああああ!!!」
 一転してさわがしくなった店内にうんざりして顔を向けると、人差し指を突きつけてわなわなふるえる大の男がいた。
「どうやってここを見破った!! さてはきさま忍びか!? こうしてはおれん!」
 意味不明なことを口走り、ダッシュで入り口に走りかけたえり首をすばやくつかむ。
「ぐえ」
 カエルのつぶれたような声をだし、その場で足をすべらせズデン、としりもちをつく。
「げふっ、ごふっ……げふぁっ!!」
「わざとじゃねーから。すまん」
 のどと腰に手をあてもだえる日和にワビをいれる。
「あああ、あの、どうか、されたんですか?」
「いや、あんたの制服にトラウマかかえたヤツがここに一人いるんだ」
 ルカ女の制服を着た少女は、せきこむ日和に目もくれず、大沢木のほうをちらちらとうかがう。
「あの……わたしに、覚え、ないですか……?」
「なんだ。あんた、日和を追いかけてたヤツらの仲間かよ」
「え……?」
 絶句する少女。
「もう二度とあんなマネしねぇでくれねえか? コイツはオレとちがってキモったまが小せェんだよ」
「……そう――よね。覚えてもらっているはずなんか、……ないよね」
 少女は目にみえるほどの落胆をみせた。
 なにか間違ったことを言ったか、といぶかしむ大沢木。
「いや、ちがうならいいんだけどよ、俺はただのつき添いなんで、本命はこっち」
 ゴフゴフと、座りこんでむせかえる日和を紹介する。
「ひどいぜ、いっちゃん」
 涙目になって見上げた日和は、薄闇に見覚えのある二つのふくらみを見つけて目を()いた。
「これは――!?」
 真顔になる。
 記憶の扉がささやいている。
 オレはこの巨乳を見たことがある、と。



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