「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 学生服に青葉を盛りつけた日和がぶっすりとむくれて反論する。
「ハァ!?」
「いっちゃんにはわからないんだ。集団女子高生に追いかけられるおそろしさを」
 ぼそりとつぶやく日和にあきれる大沢木。
「まだビッてんのか情けねぇ。あいつらなら俺が追いかえしただろ」
「追いかけられた人間でないとこの恐怖はわからない」
「ひーちゃんが場所知ってるんだからよ、前いかねーでどうすんだ」
「そんな無謀な行動をとれと!?」
 ふたたび植えこみにもぐりこもうとするのを、首ねっこをつかんで引き留める。
「信頼しろよ。俺がまもってやっからよ」
「うぅ……このトラウマ、一生かかっても消えそうにない」
 肩を抱かれて日なたにでると、とある古ぼけた日本家屋の前で立ち止まる。
「ここだよいっちゃん」
「へぇー」
 日和が指さす上をみると、年期のいった木目の看板に『一刻堂』の楷書(かいしょ)書きが堂々と(えが)かれている。
「ほぉー」
 正面入り口にはフル装備の甲冑が戦国武将のオーラそのままに出むかえてくれる。
 足をふみいれると無表情にほほえむ大小の仏像が数体ならび、そうかとおもえば反対側のキャビネット棚にズラリとアンティーク人形の列。なまじリアルな造作は十体以上ならぶとひたすらにシュールだ。こんなものを後生大事にするオンナの気がしれねえ、と大沢木はおもう。
 静まりかえった店内。
「ふぅーん」
 差しこむ日の光だけが唯一の光源だが、それでじゅうぶんだ。
 入り口での印象よりも奥ゆきがながい。こわごわは入ってくる日和を尻目に、もの珍しげに陳列物を物色する。鑑定書つきの刀剣類。いわくある陶磁器。古書類のまとめられた棚は防塵対策に透明なビニールがかぶされ、それなりに貴重な資料なのだろう。
 ちらりと目についたものを手にとってみる。
『武芸百般』
 いまにも破けそうな数ページをめくると、文字らしきものがつらつらと黒いスミでつづられている。
「読めねえし」
「お客様ですか?」
 唐突に声がかかる。
「のっぴょぴょう!?」
 奇妙な声が日和のいたあたりからあがる。
 気配すら感じなかったが、奥座敷のほうからあらわれた一人の少女が、とまどった様子で自分たちをみていた。
「あの、あまり手をふれないでいただけませんか? 古書などは指のあぶらがつくだけでも(いた)んでしまうもので……」



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