「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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「そういや今日あいつ来なかったな」
「…あいつって?」
「あいつだよ、あいつ。いつもデーハーなあの女」
「……あー、みすずね。どーせアイドル様はお忙しーんでしょ」
「お()さんはなにも言ってなかったじゃねーか」
「………あ、そこ右ね。気になんの? いっちゃんあんなのタイプなのか?」
「バッカちげーよ」
「……………いっちゃん! ちょっと待って!」
「…………」
 すさささささ――がさっ
「オーライ。けどあいつ性格わるいぞ。昨日もオレにアイスめぐんでくれなかったんだ」
「根にもつなよ。男がそんなくだらねーことで」
「……たとえば砂漠のど真ん中。のどカラカラで干からび状態のとき、目の前でこれみよがしに水をのんでいるヤツがいる。どーよ?」
「どーよ? ていわれてもなァ」
「………アノ女はそういうたまだ。悪いことはいわない、大和(やまと )なでしこへの改宗をすすめる」
「なんの宗教だよ。第一オレはなぁ」
「……………ストップ!」
「……ああ」
 すさささささ――ぴたっ
「まさかいっちゃん、なでしこ反対派か!?」
「……ンだよソレ」
「まさかいっちゃんが敵となろうとは……いまならまだ間にあう! チャラチャラした現代の風潮に反旗をひるがえし、伝統的日本女性の美を追求することに命を()けないか!?」
「賭けねーよ。てか人の話きけよ。俺が言いたいのはな、あれは俺たちの知ってるヤツに似てね−かってことで」
「……………ごめん! とおくて聞こえない!」
「…………」
 立ち止まると、半眼で後ろをふりかえる。
 電柱の影から、首だけのばしてキョロキョロする日和。
 安全を確認すると、かささささ、とあかるい場所をさけてすすみ、大沢木のちかくまで到達するなり「とぉっ」(やぶ)のなかへともぐりこむ。
「オーライいっちゃん。話を聞こうか」
 植えこみの隙間からもの言う頭にゲンコツをかます。
「はうあっち! いってぇ!!」
「いいかげんにしろコラ」
 陰から引きずり出す。
「どこのストーカーだおまえは」
「ちげーよ。オレが追いかけられるほうなんだよ」



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