「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 あえかは容赦がなかった。道場へくるたび毎度のように組手を申しこむ大沢木を、ことごとくかえり討ちにしてしまう。
 勝てばなんでもいうことを聞く、という言葉は、もはや恒例の挑戦文句だ。
 今日もまた全敗記録更新である。
「そりゃ、いっちゃんがきてくれれば心強いけど」
 内心納得いかない日和。
「おれじゃ不満かよ」
 剣呑(けんのん)な様子の大沢木。何度負けてもくやしいことは変わらないらしい。
 やつあたりされそうだったので、あわててブルンブルンと首をふる。
「不満なわけねーじゃん!」
「なら決まりだろ」
 大沢木だって弱くはない。なぎなた相手に対等に立ち回るレベルだ。だが、ことあえか相手となると、てんでいいところはなかった。
 ヒラリヒラリと攻撃をかわされ、気づけば体は宙を舞っている。それからおきまりのように、どしーん! と派手な音が響く。
 さすがというべきか、受け身は完璧に決めるがそれでも何度も投げられると体力が続かない。ギブアップして倒れこむのがせきの山だった。
 なぜケンカ百般ともあろうものが、自分と同レベルなのか。
 息も乱れず美しい表情も崩さないあえかはやはりただものではない。
「場所は覚えていますか?」
 ぼーっとした顔に不安になるあえか。
「ふぇ?」
「一刻堂の場所です。何度か行ったでしょう」
「あー……バッチリッス! オレにまかせてください!」
「そうですか、それではお願いします」
 笑顔を向けられ、日和のやる気は百倍増した。




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