「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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「本日はこれまで」
「有り難うございました!」
 修練の結びの言葉を口にした日和は、あれ? と首をかしげた。
 終わるのがはやい。
 いつもなら、しごかれて息も絶え絶えに帰路につくはずが、今日はめずらしく無難に歩けるだけの体力が残っている。
「春日君」
 と、あえかに呼び止められる。
「なんスカ?」
「このあと、予定はありますか?」
 師匠がオレに予定をたずねる。
 はやめに切り上げられた修練。
 つまりそういうことだ!
「デートですね! こころの準備はできてますとも! サァ、はやくこの腕のなかにマイハニーCome On(カマン)ッ!!」
「おつかいを頼まれてくれますか?」
 にこやかに無視し、道着姿のあえかは言葉をかさねた。
「……おつかい?」
 ひろげた手のひらをクイクイ。と動かす。
「ええ。”一刻堂(いっこくどう)”から、ある品物を受けとってきてほしいのです。連絡はしておきますから」
「げっ。一人でですか!?」
 おおげさに身をひく日和。
「なにか?」
「あそこ、なんか出そうでこわいんスけど」
 ”一刻堂”は古美術店である。いかにもいわくありげに並んだ品の数々は、見かけどれもたんなる置物であるが、人一倍霊感のつよい日和にはそれ以上のなにかに見えてしまう。
「今日中に受けとって欲しいといわれているのですが、私もこのあと別の用事で出かけなければなりません」
「そっちについていきます!」
「それでは意味がないでしょう」
 あきれるあえか。
「そうだ。大沢木くん」
 といってあえかは、床に大の字になってノビている少年に声をかけた。
「くっそ、勝てねー」
 くやしそうにつぶやく。
「なんでもいうことを聞くと言ってましたね」
「……男に二言はねーよ」
 むくりと身を起こすと、道場のすみにほうり投げた学ランをとりにいく。



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