「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 ぺたんと尻餅をつく。
 予想もしていなかった反撃。
 まるで鋼にでもうちこんだかのような衝撃に手がしびれ、力が入らない。
 同じ目線の位置に、いつもバカにしているクラスメイトの野墨灯里(あかり)が、怯えた小動物のように身をすくめていた。
 なにが起きたというの!
「ったく、あぶねぇ」
 誰にも見られないよう片手を隠した大沢木は、すばやく目を走らせた。
 見られちゃいねえだろうな。
 するどく長くのびた爪が、するすると元へともどっていく。
 まっ先に避難している日和もどうかとは思うが、ほかの誰かがいるとはおもわなかった。
 どうしてこう、女ってのはドンクセェんだか。
 こういう裏ワザは趣味じゃない。ケンカで使うにはすぎた能力だ。
 だが、マァ――
 アスファルトの路面にへたりこむなぎなた女に向け、笑顔で声をかける。
「楽しかったぜ?」
「――――ッ」
 顔をまっ赤にし、すっくと立ちあがるなりクルリと後ろをむく。
「今日のところは失礼しますわっ!!」
 ルカ女の女子たちがほっとした様子で安堵(あんど)のため息をつく。
「いきますわよ皆さん!」
 ぞろぞろとつれだって去っていく女子高生の集団。緊張から開放されたせいか、口々に他愛もない話をはじめた。
「ふっ。やつらあきらめたようだな」
 いつのまにか隣で腕をくみ、日和が勝ち誇った笑みをうかべていた。
「これが実力の差ってやつだ」
「……まっ、いいけどよ。次からは助けねーかんな」
「おおう、マブダチ! このヒーロー! 伊達にあの世はみてねーぜ!」
「みてねーよ」
 笑いあいながら、二人はからすま神社へと歩いていく。
 そのうしろ姿を見送る少女のことなど、気にもかけてはいなかった。




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