「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 気楽な調子でたずねる親友にぶるぶると首を横にふる。
「ぬれぎぬだよ! オレなにも悪いことしてない!」
「だ、そうだ」
 かるく笑い声をあげると、するどい目で女子高生の一団を睨めつける。
「相手なら俺がしてやる」
 見るからに不良(・・)な少年の登場に、女子高生たちは不安な顔を見合わせた。
「ご自分の状況がお見えでなくて?」
 ただ一人、なぎなた少女の高圧的な態度は変わらない。
「このなぎなたは三国兼定。本物でしてよ?」
 無造作に足を踏みだす大沢木。
 蒼白になり、あわてて後ろにさがる少女。
「あ、危ないじゃありませんの!」
刃物(ハモノ)つかうならよ。もうちょい思いきりよくいけよ」
 わずかに切り裂かれた頬に指を走らせ、舌でなめとる。
「なっ」
 少女の顔が赤く染まる。
「慣れてねぇヤツは腰が引ける。ケンカで刃モノちかつかせるやつぁ、(おど)しだけのハンパ野郎がたいがいだからな」
「――馬鹿にされましたわねっ」
 少女はグッ。となぎなたの柄をにぎりしめると、裂帛(れっぱく)の気合いとともに突きだした。
 日和を押しのけ、なぎなたの刃から身をそらす大沢木。
(おおとり)流薙刀術宗家の名をけがす不埒(ふらち)もの! 成敗いたす!」
「へっへ」
 たて続けにくりだされる突きを避け、払い、みごとな体さばきでうけ流す。
 口元には笑みすらうかぶ。
 それを見てとり、さらにあたまに血をのぼらせる少女。
「このっ! このっ!」
 往来でくり広げられる攻防に次第にギャラリーが集まってくる。
 日和もそのなかにいそいそと混じると、無責任に声援をおくる。
「さすがだぜいっちゃん!」
 おいおい誰のせいだよ。
 現金な声に油断が生まれた。
「――ひゃぁ!」
 何かにつまずき、体勢が崩れた。
 人がうずくまっていた。
 怯えた目と合う。
「愚か者っ」
 (らん)とかがやいた少女の瞳が好機とばかりに隙をねらう。
 避けることもできた。
 だが――
 ぎんっ! と硬質のものに弾かれ、なぎなたを取りおとす少女。



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