「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

「ひぃ!」
 滑るように刃が移動し、首筋にピタリと当てられる。
「おばけ高校の男子がかぐや様にとり憑くなんて(けが)らわしい。即刻許嫁などというご冗談、取り消していただけませんこと?」
 おばけ高校というのは日和の通う月代高校のことだ。オカルトスポットで有名な弓杜町ただ一つの高校で、近くの学校からはそんなあだ名がつけられている。
「いいいイイナズケですか?」
「そう。あなたはかぐや様にはふさわしくありませんの。あの方にはもっと高尚で、もっと学識豊かな美男子でなければ認めませんことよ」
「そーよそ−よ!」という、思春期のガラスのハートを粉々にする容赦(ようしゃ)のない黄色い声。
「ひょっとして、香月さんのことでしょうか?」
「まぁ、なんて()()れしい! お名前で呼ぶなどッ」
 こわいよぅママン。
 目の前の女の人が鬼のように毛を逆立ててボクを睨むよぅ。
「分際をわきまえぬ下郎の所業。よもや生きる価値なし!」
 すさまじい気迫に呑まれ、ヘビに睨まれたカエル同然に固まる日和。
 オレの人生は女子高生の手によって幕を閉じるのか。
 香月ちゃんにもあえか様にもまだなにもしてないのに!
 せめて、せめて、チューくらい……
「その辺にしておけよ」
 いっちゃんの声が聞こえる……
 これが走馬燈(そうまとう)……
 なんで師匠との甘酸っぱい思い出じゃないのか。
「なんですのあなた? 邪魔しないでくださる?」
「いい加減日和も反省してンだろ」
 グィと肩がひかれる。
 そろりと(まぶた)をあけると、まっ赤なシャツのデザインに負けず劣ない獰猛(どうもう)な笑みが向けられていた。
「いっちゃん!」
「コイツはオレのダチさ。そのくらいで勘弁してやっちゃくれねえか?」
 割りこんできた大沢木一郎は、なぎなたの柄をつかんで押し返した。
「ま」
 たたらを踏んで、キッと険しい目をつりあげるなぎなた女。
「邪魔する気ですのね」
「ビバ命の恩人! ヘルプ・ミー・いっちゃん」
 背中に隠れる日和に苦笑する。
「おまえに非があるとおもって黙ってみてたんだがな」
「居たの!? もっとはやく助けてよ!」
「どこのどなたが存じませんけれど、極悪人の片棒を担ぐつもりならお覚悟あそばせ」
 なぎなたの先をピタリと大沢木にむける。
「なんだよ日和。まだ他にも悪いことしたのかよ」



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