「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 地面に手をつく日和。
「すいませんでしたーー!!」
 必殺の土下座だった。
「あ、あの、もういいですから」
 ずっとあたまを下げた態勢でいると、おずおずと声をかけられた。
「不可抗力――ですよね? わたしなんかに――その、わたし、気にしませんから」
 顔をあげる日和。
「本当ですか!?」
 その眼がとらえたのは、赤いリボンのセーラー服につつまれたボリューム満点のふくらみ。
 志村いわく、男を獣に変えるといわれる伝説の幻獣。
 あさはかな己の既成概念をあざ笑い、あまつさえその甘い誘惑に理性の壁を壊そうとする。
 なんという圧倒的な存在感。
 そこにあるだけでそれだけしか目に入らなくなる。
「あの……」
 …………。
 巨乳が遠ざかり、怯えた視線が向けられる。
 しまった。
 オレとしたことが冷静さを失い、フォローのチャンスを失うとは!!
 巨乳おそるべし!
 こうなれば選択肢はひとつ――ッ!!
 くるりと180度回転して逃げだそうとすると、壁があった。
 女子高生の一団がズラリとならび、手に手にラケットやバットをもって逃げ道を(ふさ)いでいる。
「よくやりましたわ、のねずみ(・・・・)さん」
 その中から、ひときわ物騒な武器をもった女傑が進みでてくる。
「あ…」と小さな声をだして、身をすくませる少女。
「の、野墨(のずみ)、です……」
 蚊のなくような声は、日和の向こう側に届かなかったようだ。
「観念なさい。ゴキブリ男」
 …………。
 キョロキョロまわりを見渡し、目があった人に声をかける。
「呼ばれていますよ?」
「アナタのことでしてよ!」
 ですよねー。
「よくも手間取らせてくれましたわ。観念して刃の(つゆ)とおなりなさい」
 凶器を見せびらかすように振りあげるなぎなた女。
「まてっ、話せばわかる!」
「問答無用!!」
 ぶおん、と大振りな一撃は間一髪で横の空間を()いだ。



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