「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 天の助け!
 おそらく目的はおなじだろう。ポケットに手をつっこんで、からすま神社の方角へ歩いている。
 大沢木はあまり学校では話しかけてこない。不良というレッテルのある自分が親しくすれば、日和までクラスから浮いてしまうと考えているフシがあった。
 考えすぎなんだよな、とおもう。
 日和にとっては、彼も御堂や志村と変わらない大事な友達だ。
 たまたまあったその友達にボディーガードしてもらう。
 うむ。きわめて偶然。
 自然ななりゆきってヤツだ。
 急いで追いかける。

 どん!

「きゃっ!」
「わっ」
 勢いこんで誰かとぶつかる。
 もつれあうように地面に転がった。
 フニュ、と柔らかい感触がほほにあたる。
 変幻自在なフィット感。
 服のうえからでも感じるこの弾力。
 人肌のぬくもりがなんとも心地よいにゃぁ――
「いやぁ!!」

 

ばちぃん!!



 強烈な手のひらフックが左から右に通り過ぎていった。
 もんどりうって地面に転がる。
「ぐふ」
 これはうめき声。
 痛むほほをおさえて身を起こすと、おびえた目の少女がいた。
 分厚いハードカバーの本を抱えている。
 それでも隠しきれない胸のふくらみに思わず目が吸いこまれる。
「やぁねぇ。こんなまっ昼間から痴漢よ」
「近頃の学生の倫理観ってどうなってるのかしら」
「ゲームのしすぎであたまが悪くなったのよ。うちの子も気をつけないと」
 しかたないじゃんか!
 だって男の子なんだもん!
 胸中の言い訳は、主婦たちの冷たい視線の前に言葉にでることなく消える。
 このままでは通報されかねないので、立ち上がってなんとかフォローをこころみる。
「いまのその、不可抗力なんです!! 君のおおきな胸が思わず誘惑するから! ちがう! 男なら誰だって誘惑されるから! ちがう! えーと、思わず顔をうずめて死んでしまいたいとか思ってしまってチクショウ!」



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