「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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 女子高生に追いかけられるシチュエーションは全国男子諸君の夢にはちがいないが、凶器ふりかざして追いかけられるのはちょっとニュアンスちがうよね。
 オレ、他校の女子にうらみ買うようなことしたっけ?
 校門をでて全力ダッシュで逃げてきたが、どうもふり切れる様子はない。
 どこに隠れてもルカ女の制服が目につく。ご町内にあんなお嬢様学校に通う金持ちがそういるとは思えない。とすれば、自分を狩りだすためだけにこれだけの人数が出張してきてるってことになる。
 考えるだにおそろしい。
 世界は敵だらけじゃないか。
 ごみバケツのふたをそろりと持ちあげて様子をうかがう。
「みつかった?」
「いないわ」
「ほんとゴキブリみたいなやつね!」
 さんざんなことを言われているが今出ていくわけにはいかない。

 プルルル……

「はい。こちらかぐや親衛隊はな組……それらしいの見つけた?」
「場所転送して! GPSで追うから!」
 …………。
「河川敷だって!」
「ちょこまかとほんとうざい奴!」
 遠ざかっていく女子高生の足音。
 しばらく息をひそめる。
 ……引きかえしてくることはなさそうだ。
 慎重にゴミバケツからぬけだすと、前途多難な帰り道にほそい息がもれる。
「あなオソロシヤ文明の利器(リキ)
 携帯電話という最新技術は兵器である。索敵なんかお手のもの、どこにいたって連絡がつくし、指名手配の顔写真なんてばらまかれた日にはとても陽の下なんか歩けない。
 なんでそんな凶悪なものをみんなホイホイ持ってるんだ。
 路地から顔をつきだし、おっかなびっくり辺りをうかがう。
「今日は厄日だ。大凶な日にちがいない」
 肩を落として歩きだす。
 それでも行き先はからすま神社である。無意識なうちに、あえかのもとへかよう習性が生まれてしまっている。
 バッグのなかに胴着はあるが、自転車がないので徒歩でいくしかなかった。
「ん? あれって――」
 手のひらを水平に額にかざし、50Mほど前を歩く人影に目をかがやかせた。
「いっちゃん!」



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