「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 びしっ、と親指を自分にむけてポーズを決める。
 ふっ。
 まいったな。
 これがモテ期ってやつか。
 一生に一度あるかないかの罪つくりな時代が到来しちまったようだ。
 ビバ青春。黄金期のアバンチュールを謳歌(おうか)するぜ!
「ホントにあなたが春日日和?」
「おどろくのも無理はない。こんなナイスガイだとはおもわなかったかい?」
『トゥルルル……』
 手品のようにケータイをとりだす女生徒。
 それまでと打って変わったするどい声で言葉を告げる。
「みつけたわ! あたしたちのかぐや様に手をだしたうつけ者よ!」
「うつけ?」
 うつけってどういう意味だろう。
 つけものの種類か? と考えているあいだに、おなじ制服を着た女生徒がそこらじゅうから押しよせてきた。
 そして取り囲まれる。
 おおう、なんだ?
 オレの魅力に気づいた女子がこんなにいたのか?
「まいったな。こんなにいたんじゃデートの約束は数週間先まで満杯になっちまう」
「なにを戯言(たわごと)仰ってますの?」
 ながい棒のようなものを提げた女子が、一団から前にすすみ出てきた。
「われらの”かぐや様”を(かどわ)かした下郎。いますぐここで成敗いたします!」
 目ツキのこわい女生徒は、棒きれから布袋をはぎとり、その先を日和の眼前につきだした。
 ギラリ! とかがやく刃が陽光を反射する。
 鼻先まで近づいたそのかがやきに生つばをのみこむ日和。
 あれ? モテ期は?
 この空気……何回目だろう。
 殺気と威圧のアソート。
 殺意の波動につつまれた一触即発のデッドゾーン。
 生命の危機に対し、日和の頭脳は咄嗟(とっさ)のひらめきを展開した。
「あーーーーっと、そこの地面に超特大のゴキブリ発見ッ!!」
「うそっ!?」
「どこ!?」
「きゃーーーー!!」
 口から出まかせである。
 脱兎(だっと)のごとく駆けだす日和。
 これでは自転車(チャリ)をとりに行くことすら自殺行為だ。
「お待ちなさい!」
 なぎなたを構えた女生徒が追ってくる。
 そのうしろに敵意むきだしの女子高生の群れ。ゴキブリ発言で怒りのボルテージは一気にMAXまで上昇したようだ。
「ちくしょー! 誰だよモテ期なんて言ったの! 全然ちがうじゃん!」
 自分で言ったのではあるが、それに気づく余裕もない日和であった。




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