「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 弁当はどこへ!?
「待て! はるまきはオレのだぞ!」
 となりに目を向けると、きつね色のはるまきを高々とかざした志村が勝利のポーズを決めていた。
「甘いな! はやい者勝ちだ!」
「なんでだ!?」
 バン! と机をたたいて立ちあがる。
 野郎どもが争奪戦をくり広げるその中心には3段重ねの重箱ーーまさに今、自分が箸をつけようとしていた昼メシだ。
「俺ンだろそれ!!」
「あぁん!?」
 眉の中央にしわをよせ、いかめしく振りむく志村。
 そろいもそろって全員が同じ顔を向けてきた。
「オマエにオレたちの気持ちなぞわかるまい」
 はるまきを噛みしめる志村。
「人の昼メシ奪っておいてどういう気持ちだよ!」
「キサマに憐憫(れんぴん)の気持ちはないのかということだ!」
 うおお! と賛同する声があがる。
「ここにいる(もののふ)たちは、かつて(こころざし)を同じくしたもの――」
 一人一品ずつのおかずを手にしてうなづく男たち。中には天をあおいで涙をこらえるものもいる。
「そして夢やぶれ、散っていった男たちのなれの果てだ!」
「結構いるんだぜ? この学校にも」
 ひょいひょいと横から重箱の中身をかすめとりつつ御堂。
「あの子にフラれたやつら」
「おれたちから夢を奪った春日日和! われらはキサマに復讐(ふくしゅう)するのだ!」
 おおおおお!!!
 わきあがる歓声。
 まさしく負のカリスマにあふれたエセ教祖である。
「まずは手はじめにこの弁当から犠牲になってもらう!」
「バカなマネはよせ! 復讐はなにも生みはしない!」
 つぎつぎに平らげられていくおかずをみて悲しみしか生まれない。
「コロッケパンおごるから!」
「笑止!」
 パセリまで味わって噛みしめつつ、志村は二段目の扉をあけた。
「コロッケパンなとキサマにくれてやるわ!!」
「くそ、この説得もダメか!」
「焼きそばパンでもゆずれんな」
 こんがりあぶられたぶりの切り身を味わいつつ、勝利の余韻(よいん)にひたる。
「そこで見ているがいい」
「そうはいかん!」



Copyright (C) 2014 にゃん翁 All rights reserved.