「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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 キーンコーンカーンコーン――

「メシだ!」
 いつもの購買に出かける時間。
 今日は席を立つことなく、机の上にでん! とおおきな荷物をおいた。
 いわずもがな、東香月の届けてくれた手づくり弁当である。
「ふっふっふ。これが愛妻弁当というものか」
 ご満悦な顔でふたを開ける。
「これは!?」
 目をみはる。
 ここしばらくのあいだ、弁当なるものはコンビニで買うものと相場がきまっていたが、そんな量産型ワンコインものとは比較にならない色とりどりな具材の数々。
 一品一品ていねいにつくりあげられた品は、見ばえ以上に日和のこころを打つ美しさであった。
(これをオレのために)
 感慨(かんがい)深げに目をとじる。
 こんなおいしそうなものが毎日たべられるのか。
 揺れる心。
 おもい返されるあえかとの修業の日々。
 せめて心のうるおいをとノゾキを敢行(かんこう)すれば例外なくシバかれて吊るされる毎日。
 それでも師匠の美しさを目的に通う価値には十分にあった。
 だが今、その価値がゆらいでいる。
 轟あえかに匹敵する大和撫子。
 ルカ高三年東香月。
 流れる黒髪。白百合のような(はかな)げなその姿。凛とした師匠とは異なるしとやかな乙女。
 しかもオレにぞっこんときている(?)。
 許嫁というこれ以上もない立場。
 手をつないでも許されよう。
 文通くらいならいいのかも知れない。
 あわよくば二人で映画でも見に行くこともありえる話だ。
「きゃっ!」「はっはっは。ただのフィクションだよ」「とてもこわかったの」「僕がついてるよ」「頼もしい方」「さあ、腕のなかへおいで」「一生ついていきます」
 完璧なシナリオじゃないか。
 予知夢か?
 確実にオレの未来とリンクしている。
 自分で自分の想像がこわくなるね。
「さて。愛情が冷めやらぬうちに」
 ほくほくと(はし)に手をのばす。
 箸しかなかった。



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