「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

「リア充爆裂しろ!!」
 男子の声に憎しみがくわわる。
 香月はかたまりつづける日和をみて、その秀麗な眉目をくもらせた。
「ご迷惑でして?」
「あ、いや、ありがたいです」
 硬直からとけて素直にうけとる日和。耳までまっ赤である。
「ういういしすぎるだろ!」
「どこの新婚さんだよ!」
「このあとチュゥか? あぁ? やれるものならやってみろ!」
「号泣するからな!!」
「リア充爆死しる……っぁ」
 憎しみは極限をこえて、あと一歩で暴発しそうな雰囲気である。
「ひーちゃんもスミにおけねーな」
 大沢木はにやりと笑うと、片手をあげて校舎へむかう。
「邪魔しちゃわりーし先いくぜ」
 昨日の道場での騒ぎをしらない彼は、空いている校庭をハナウタ混じりに去っていった。
「お口にあえば宜しいのですけれど」
 あでやかにほほえむ彼女は、「放課後にまたお伺いいたします」と澄んだ声をのこし、黒服があけた後部座席の奥へ姿を消した。
 スモークガラスなので外側からうかがい知ることができない。
 それ以前に、いかつい黒服がかもしだすオーラのせいでちかづくことすらままならず、去っていく外車を全員が見送るだけだった。
 とりのこされる日和。
 うわさ好きな女子たちがさまざまな憶測(おくそく)をかわし教室へ向かうなか、嵐のまえの静けさのごとくに一触即発な空気が充満する。
「ひィ〜よォ〜りィ〜〜〜」
 地の底からこだまする声。
「おれは今日まで、おまえを親友だとおもっていた」
「な、なんだよ。オレがなにしたってんだよ」
 重箱を大事に胸にかかえ、様子のかわった志村からあとずさる。
「おまえはタブー(禁忌)を犯したのさ」
 御堂すら哀れみをこめた目で自分を見る。
「私立聖ルカ女学院高等部三年東香月。生徒会長で人望も厚く、女子校にファンクラブまで存在する美貌。由緒ある名家の出身でお嬢様。茶道部の部長までつとめる才媛(さいえん)
「うわっ、キモいなおまえ、なんでそんなに詳しいの?」
「おまえが知らなすぎるんだよ。ここらで彼女をねらう(ヤロー)有象無象。告白して築かれた男たちのこころの傷はアメリカのグランドキャニオンに匹敵すると推測される」
 うらめしげな友の肩に手をおく。
「そのうちのひとりだ」
「ミもフタもない言いかたをするな!」



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