「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 いまだ気軽にはなしかけてくるのは日和か、クラス委員長の南雲美鈴くらいだ。
「なんだこいつら」
 まえを向き、やぶにらみの双眸(そうぼう)がとらえた光景に感情をぶつける。
「すっげー美人がいるんだってよ。いっちゃん見てみたいだろ? な?」
「んなことより、ねみーとこ早起きして遅刻じゃ意味ねーだろが」
 学生鞄を肩にぶら下げてすすむと、低い声をだす。
「どけ」
 ビクッ!
 小動物のようにふるえてふり返った生徒が、あわてて近くの生徒の肩をたたく。
 それがいくつも繰り返されて、自然と道ができた。
 全員が、大沢木をおそろしいものでも見るようにみている。
「……ケッ」
 半眼で毒づくと、モーセの奇蹟のごとくひらけた道を肩を怒らせ歩いていく。
「いやー、みなさんオハヨー。コンチお日がらもよく」
 日和があいそ笑いをふりまきつつその後ろにつづく。扇子(せんす)でもあれば立派なたいこもちである。
 人ごみがとぎれると、正面に校門が見えた。
 黒ぬりの外車も見える。
 日本車とことなる胴長の低い車体。かがやくフォルムの先頭にはゆるぎない銀細工のオブジェ。
 一生になんども見ない車だ。
 『月代高等学校』と表札のはりつけられたうす汚い壁にそぐわない、仕立てのよい制服に身をつつんだ少女が、重そうな荷物をかかえて(たたず)んでいる。
 日和と目があうと、柔らかくほほえむ。
 脳天ズキューン!
 かたまる日和。
 野次馬たちが見守るなか、しずしずと少女は大沢木と日和のもとへと歩みよる。
 不審な大沢木にかるく会釈(えしゃく)して、かたまった日和の前で立ち止まる。
「お早うございます、春日さま。お弁当をお持ちいたしました」
「なにーっ! 日和の方だとー!?」
「バカな! こんな美人が奴のために弁当など!」
「ちょっとまて! 弁当を作ってくるとはそれなりな深い仲!」
「やめろ!それ以上言うんじゃない! オレたちが不幸になる!」
「リア充爆発しろ!」
 どよめきのなかに男子の嘆きがこだまする。
「昼食はいつもお買いになられてると聞いて、せめて栄養のつくものをと作りましたの」
 むらさき色の高級な布につつまれて差しだされたのは、数段がさねの重箱。
「「手作り弁当だとー!!」」
「バランスを考えた昼食!」
「けなげでいい子だ……」
「愛情120%ってかちくしょうめ!」



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