「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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 校門につくと、人だかりができていた。
 学生ばかりの人ごみに自転車をおりると、野次馬根性むきだしで後ろから首を伸ばす。
 それほど背が高くない身ではまったく見えない。それくらいの人ごみだった。
「ねぇねぇ、なにが起きてんの?」
 近くの学生にたずねる。
「すげぇ美人がいるんだよ。誰か待ってるみたいなんだけど」
 つばを飛ばしつつ、興奮をあらわにする学生に礼を言う。
「ほほう」
 それは男子たるもの、いちど見てみねばなるまい。
 とはいうものの、人垣の塀は厚く、簡単にのりこえられそうもない。
「よー日和、なにしてんの?」
「なんだよこれ。事件か?」
 連れだって登校してきた級友二人にあいさつを返し、
「あぁ。なんか美人がいるんだって」
「へー」
 それほど興味のない御堂と対照的に、志村はロコツにそわそわしはじめた。
「で、その美人度数は何度くらいだ?」
 美人度数は別名志村度数ともいう。ようするに彼のかたよった女性尺度である。美倉みすずはここ数ヶ月殿堂入りらしい。
「いや、みてねーしよ」
「おまえそれでいいのか!?」
 両肩をつかまれ、はげしくゆさぶられる。
「美女がいる。ただそれだけでそこにたどりつく価値がある。おれはお前にそう教えたはずだ!」
 熱く語る彼の目は燃えていた。
「そうか……わすれてたぜ」
「わかってくれたか」
「それが漢と書いてもののふとよぶ、オトコの生きざまだったな」
 がしっ、と握手(あくしゅ)を交わす二人。
「朝っぱらからアツぐるしいマネしてんじゃねーよ」
 苦笑とともに学生服を着くずした少年が行きすぎる。
「あれ? いっちゃんめずらしいな。朝からくるなんて」
出席日数(デセキ)がたりねぇとよ」
 追いかけてきた日和にこたえる大沢木。学生服のしたには、血のようにまっ赤なTシャツにずらりと牙をならべて笑う口のデザイン。
 彼は付近の中高校で名を知られた不良である。授業のサボりは日常茶飯事、゛狂犬゛と聞けば、その手の人間はふるえあがる。
 ちらりと後ろを見ると、日和の友達二人はなぜか敬礼のマネをした。
 聞こえないよう舌打ちする大沢木。



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