「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

「けれど、悪い方ではないのでしょう」
 涼やかな目に見据えられ、言葉をつまらせるみすず。
「そりゃ……そうだけど」
「正龍からも、日和様のことは好もしく聞いております」
 みすずはうつむいて黙りこむ。

 フッ。

 ひそやかに勝ち誇る日和。
「突拍子もない申し出とはいえ、わたくしに異論はございません。宜しいでしょうか、”舞姫”さま」
 正面から香月に押しきられ、とまどいを隠せないあえか。
「まさか……受け入れるのですか? ”総社”の指示を?」
「わたくしは東家のもの。家なくしてわたくしは存在しませぬ。どのような申し出も、受ける覚悟で参上しました」
「家のために、未来を捨てると?」
 確認するかのような問いに、あでやかにほほえむ香月。
「どのみち負うが定め。この身はいずれ決められた相手に捧げるだけ。もとより自由など欲してはおりませぬ」
「それは不幸な考え方です。先ほども申したとおり、あなたはまだ若い。夢に希望をあずけ、不可能を可能といってもよいお年なのです」
「わたくしの身を案じて頂いているのは結構なこと。なればこそ、わたくしはこの身をそのかたに捧げます」
 捧げます……
 ぶばっ、とのけぞりつつ鼻血を噴きだして倒れこむ日和。
「ぐふ」
 幸せそうな顔で気絶する。
「見てよこれよこれ! このままじゃあなた、あいつのいいようにされちゃうのよ!?」
 ここぞとばかりに言いつのるみすず。
「夫婦となればそれも許されましょう」
 びくん、と日和が反応した。意識はあったらしい。
「そんな……」
 くちびるを噛むみすず。
「……伝える前に、こんなのって、あたしだって、言いたいこと……」
「みすずさん……」
 いたましげなあえかの表情。
 彼女はこうなることを、なかば予想していたのだろう。
「わかりました。では、こうしましょう。あなたがたが夫婦となるとしてもまだ先の話。しばらくのあいだ、春日君を観察してみては?」
「観察?」
 たずね返した香月に、あえかはうなずく。



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